せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
気まずいランチタイム
ランチタイムの時間になり、私はクラウス様がいる学園へと足を運んだ。学園の食堂で食べてもらう場合は、基本的に侍女の同行は必要ない。……クラウス様がランチの時間くらいは一緒に過ごしたいってうるさいから、こうして向かっているけど。
寮生がテイクアウトできるようになっている、シェフが作ったボリュームたっぷりのローストビーフサンドイッチや、色とりどりの野菜サラダの入ったバケットを片手に、私はクラウス様を探した。
テラスで待ち合わせって言っていたけど、この辺りかしら……。
昨日、コンラート様とマリー様にしてもらった学園案内の記憶を頼りに、私は庭園付近をうろうろと徘徊していた。ここはランチでは人気スポットなのか、華やかな女子生徒を中心に、テラスでランチを楽しむ生徒たちで溢れかえっていた。昨日はまったく人がいなかった時間帯に案内を受けたため、広がる光景の温度差に軽く眩暈がしそうである。
……なんとなく、クラウス様はこの辺りにいそうな気がする。
それは、完全にただの勘だった。野生の勘――とでも呼べばいいのだろうか。
ずらりと続くテラスのちょうど真ん中あたりに、クラウス様がいそうだなと思ったのだ。
すると、私が思っていた場所に、クラウス様がひとりで座っていた。
真剣な眼差しでアトリアの教科書に目を通しており、周りがきゃぴきゃぴとしているなか、そこだけ別の世界のように見えた。
クラウス様って、座っているだけで絵になるなぁ……。
元婚約者、そして元主人がとびきりかっこいいということを、なぜかこのタイミングで改めて思い知る。
おもわず見惚れていると、クラウス様とばっちり目が合った。
「……ユリアーナ!」
私を見つけた瞬間、キリッとした表情が一瞬にして柔らかくなる。悪役令嬢の時代は、もっと険しい表情になるだけだったのに。
こうやってあからさまな好意を隠すことなく出されるのが、少し前までは理解できず、本当に反応に困っていた。しかし今は……私、嬉しいとか思ってる……?
自問自答の末、私は答えを出さぬまま、その問題ごとかき消すように頭をぶんぶんと横に振った。
そんな私を見て、クラウス様は首を傾げている。私は小走りでクラウス様のところへ行くと、バスケットを丸くて白いテーブルの上に置いた。
「お待たせしました。クラウス様」
「来てくれてありがとう。ユリアーナ。ごめん、本当は俺がユリアーナを探してあげるべきだと思ったんだが、ついさっきの授業の続きが気になってしまって……。よく見つけられたな。さすが、俺の専属だ」
クラウス様は満足げに頬杖をついて微笑む。
たしかに自分でも、見慣れない場所と見慣れない人たちの中で、思ったよりもずっと早くクラウス様を見つけられた気がした。私って、意外に勘が鋭いのかしら……。
そこで、私はひとつの可能性に辿り着く。もしかして、私がクラウス様を見つける能力に長けているのって、元々の悪役令嬢ユリアーナが持っていた性質だったりしないだろうか。だって、小説でもユリアーナはいつもクラウス様のところに奇想天外に現れていたし、クラウス様とリーゼがふたりでこそこそ恋を育んでいた時も、必ずといっていいほど邪魔しにきていた。
……ユリアーナはきっと、クラウス様を探し当てるのが得意なのだろう。謎の能力ともいえるが、専属侍女としてはありがたい力ではあるかも。あくまでも、私の勝手な想像に過ぎないが。
「どうしたんだ? ユリアーナ。さっきから様子がおかしいけど」
「へっ? な、なんでもないです。それよりお昼休みが終わってしまう前に、ランチの時間としましょうっ! ねっ、クラウス様」
クラウス様が私を見つけてくれた時の表情に、きゅんとしてしまったような気がするとか、私はユリアーナだからこそ、クラウス様を見つけられるんだとか……そんなことを考えていたと知られたら、一日中――いや、この先一生クラウス様にからかわれるに決まっている。
私は誤魔化すようにバスケットを開いて、さっとテーブルクロスを敷き、クラウス様の前にランチを用意した。保温機能のある瓶もばっちり用意してある。あとはお茶を淹れてあげるだけ――。
「ここにいたのか。クラウス」
「とーっても探しましたわ! クラウス様」
私が瓶の蓋をぽんっと軽快な音を立てて開けたのと同じタイミングで、コンラート様とマリー様が、私たちの席までやって来た。マリー様の姿を見た瞬間、ドキッと心臓が跳ねる。
寮生がテイクアウトできるようになっている、シェフが作ったボリュームたっぷりのローストビーフサンドイッチや、色とりどりの野菜サラダの入ったバケットを片手に、私はクラウス様を探した。
テラスで待ち合わせって言っていたけど、この辺りかしら……。
昨日、コンラート様とマリー様にしてもらった学園案内の記憶を頼りに、私は庭園付近をうろうろと徘徊していた。ここはランチでは人気スポットなのか、華やかな女子生徒を中心に、テラスでランチを楽しむ生徒たちで溢れかえっていた。昨日はまったく人がいなかった時間帯に案内を受けたため、広がる光景の温度差に軽く眩暈がしそうである。
……なんとなく、クラウス様はこの辺りにいそうな気がする。
それは、完全にただの勘だった。野生の勘――とでも呼べばいいのだろうか。
ずらりと続くテラスのちょうど真ん中あたりに、クラウス様がいそうだなと思ったのだ。
すると、私が思っていた場所に、クラウス様がひとりで座っていた。
真剣な眼差しでアトリアの教科書に目を通しており、周りがきゃぴきゃぴとしているなか、そこだけ別の世界のように見えた。
クラウス様って、座っているだけで絵になるなぁ……。
元婚約者、そして元主人がとびきりかっこいいということを、なぜかこのタイミングで改めて思い知る。
おもわず見惚れていると、クラウス様とばっちり目が合った。
「……ユリアーナ!」
私を見つけた瞬間、キリッとした表情が一瞬にして柔らかくなる。悪役令嬢の時代は、もっと険しい表情になるだけだったのに。
こうやってあからさまな好意を隠すことなく出されるのが、少し前までは理解できず、本当に反応に困っていた。しかし今は……私、嬉しいとか思ってる……?
自問自答の末、私は答えを出さぬまま、その問題ごとかき消すように頭をぶんぶんと横に振った。
そんな私を見て、クラウス様は首を傾げている。私は小走りでクラウス様のところへ行くと、バスケットを丸くて白いテーブルの上に置いた。
「お待たせしました。クラウス様」
「来てくれてありがとう。ユリアーナ。ごめん、本当は俺がユリアーナを探してあげるべきだと思ったんだが、ついさっきの授業の続きが気になってしまって……。よく見つけられたな。さすが、俺の専属だ」
クラウス様は満足げに頬杖をついて微笑む。
たしかに自分でも、見慣れない場所と見慣れない人たちの中で、思ったよりもずっと早くクラウス様を見つけられた気がした。私って、意外に勘が鋭いのかしら……。
そこで、私はひとつの可能性に辿り着く。もしかして、私がクラウス様を見つける能力に長けているのって、元々の悪役令嬢ユリアーナが持っていた性質だったりしないだろうか。だって、小説でもユリアーナはいつもクラウス様のところに奇想天外に現れていたし、クラウス様とリーゼがふたりでこそこそ恋を育んでいた時も、必ずといっていいほど邪魔しにきていた。
……ユリアーナはきっと、クラウス様を探し当てるのが得意なのだろう。謎の能力ともいえるが、専属侍女としてはありがたい力ではあるかも。あくまでも、私の勝手な想像に過ぎないが。
「どうしたんだ? ユリアーナ。さっきから様子がおかしいけど」
「へっ? な、なんでもないです。それよりお昼休みが終わってしまう前に、ランチの時間としましょうっ! ねっ、クラウス様」
クラウス様が私を見つけてくれた時の表情に、きゅんとしてしまったような気がするとか、私はユリアーナだからこそ、クラウス様を見つけられるんだとか……そんなことを考えていたと知られたら、一日中――いや、この先一生クラウス様にからかわれるに決まっている。
私は誤魔化すようにバスケットを開いて、さっとテーブルクロスを敷き、クラウス様の前にランチを用意した。保温機能のある瓶もばっちり用意してある。あとはお茶を淹れてあげるだけ――。
「ここにいたのか。クラウス」
「とーっても探しましたわ! クラウス様」
私が瓶の蓋をぽんっと軽快な音を立てて開けたのと同じタイミングで、コンラート様とマリー様が、私たちの席までやって来た。マリー様の姿を見た瞬間、ドキッと心臓が跳ねる。