せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
「もうっ。クラウス様ったらぁ。授業が終わった途端、どこかへ行っちゃうんですもの~」
頬を膨らませて、マリー様は不満を露にした。しかし、かわいく見えるような怒り方だ。
この人が……午前中、クラーラを怒鳴っていた人と同一人物だなんて。私はおもわず、マリー様を凝視してしまった。
「……なあに? マリーの顔に、なにかついてる?」
その視線に気づいたのか、クラウス様だけを見つめていたマリー様の視線が、瞬時に私へと向けられた。にこにこと笑っているが、目がまったく笑っていないように見えて、逆に恐ろしい。
「い、いえ。なにも。今日もマリー様は、かわいらしいなぁと思いまして……」
私はマリー様の張り付けたような笑顔に怯んでしまい、ついそんなことを口にしていた。べつに無理にお世辞を言ったつもりはない。普通にしていると、マリー様は可愛い方なのだ。
「あらぁ! あなたって、案外見る目がありますのね! うーん、そうねぇ。あなたも侍女の中では、レベルが高いほうかと」
マリー様は満更でもなさそうに、口元に手を当てて上品に笑った。私は「ははは……」と渇いた笑いを漏らすことしかできない。
「そんなことない。ユリアーナ、君は世界中のどの女性よりも素敵だよ」
私が苦笑いを浮かべていると、すかさずクラウス様が横から会話に入ってきた。しかも、こっぱずかしいセリフを、コンラート様とマリー様の前でさらりと言ってのけた。
「……あ、りがとうございます」
そんなそんな、ご冗談を! と謙遜すればよかったのに、うまい対応が咄嗟に思い浮かばず、普通にお礼を言ってしまった。
「……クラウス様は、専属の侍女にとても甘いのですわねぇ」
私たちの関係を怪しむように、マリー様は変わらず口元に手を当てたまま言う。今度は目が笑っているが、手で隠された口元は一ミリも口角が上がっていないような気がした。
「ところで、ふたりはなにしてるんだ? さっさとしないと、昼休みが終わってしまうぞ」
クラウス様がコンラート様とマリー様を交互に見ながら言うと、マリー様がちょうど空いているふたつの椅子のひとつに腰かける。
「僕たち、クラウスと一緒にランチを楽しみたくて。……お邪魔していいかな?」
続いて、コンラート様も最後の椅子に腰かけると、クラウス様に向かってにこりと微笑みかけた。マリー様と違い、とても自然な笑みだった。それだけで、なぜかひどく安心する自分がいる。
「……」
「クラウス?」
「………………そうだな。一緒に食べようか」
一瞬眉をぴくりとひそめ、ものすごく長い間が空いたあと、クラウス様はやっとコンラート様の申し出を承諾した。言葉と心がひとつもリンクしていないように思えたが、スルーしておく。クラウス様なりに、アトリアに来たばかりで、歩み寄ってくれたクラスメイトを邪険に扱うことは如何なものかと考えた結果だろうから。
「わたくしとコンラート様の昼食は、シェフがもうすぐここまで運んでくれるのだけど、よければクラウス様も一緒にいかが?」
「いいや。俺はユリアーナが持ってきてくれたやつでじゅうぶんだから」
マリー様の厚意を、クラウス様がやんわりと断る。
そのうち、マリー様の家に雇われているシェフが本当にふたりぶんの料理を運んできて、昨日と同じメンバーでのランチタイムが始まった。
頬を膨らませて、マリー様は不満を露にした。しかし、かわいく見えるような怒り方だ。
この人が……午前中、クラーラを怒鳴っていた人と同一人物だなんて。私はおもわず、マリー様を凝視してしまった。
「……なあに? マリーの顔に、なにかついてる?」
その視線に気づいたのか、クラウス様だけを見つめていたマリー様の視線が、瞬時に私へと向けられた。にこにこと笑っているが、目がまったく笑っていないように見えて、逆に恐ろしい。
「い、いえ。なにも。今日もマリー様は、かわいらしいなぁと思いまして……」
私はマリー様の張り付けたような笑顔に怯んでしまい、ついそんなことを口にしていた。べつに無理にお世辞を言ったつもりはない。普通にしていると、マリー様は可愛い方なのだ。
「あらぁ! あなたって、案外見る目がありますのね! うーん、そうねぇ。あなたも侍女の中では、レベルが高いほうかと」
マリー様は満更でもなさそうに、口元に手を当てて上品に笑った。私は「ははは……」と渇いた笑いを漏らすことしかできない。
「そんなことない。ユリアーナ、君は世界中のどの女性よりも素敵だよ」
私が苦笑いを浮かべていると、すかさずクラウス様が横から会話に入ってきた。しかも、こっぱずかしいセリフを、コンラート様とマリー様の前でさらりと言ってのけた。
「……あ、りがとうございます」
そんなそんな、ご冗談を! と謙遜すればよかったのに、うまい対応が咄嗟に思い浮かばず、普通にお礼を言ってしまった。
「……クラウス様は、専属の侍女にとても甘いのですわねぇ」
私たちの関係を怪しむように、マリー様は変わらず口元に手を当てたまま言う。今度は目が笑っているが、手で隠された口元は一ミリも口角が上がっていないような気がした。
「ところで、ふたりはなにしてるんだ? さっさとしないと、昼休みが終わってしまうぞ」
クラウス様がコンラート様とマリー様を交互に見ながら言うと、マリー様がちょうど空いているふたつの椅子のひとつに腰かける。
「僕たち、クラウスと一緒にランチを楽しみたくて。……お邪魔していいかな?」
続いて、コンラート様も最後の椅子に腰かけると、クラウス様に向かってにこりと微笑みかけた。マリー様と違い、とても自然な笑みだった。それだけで、なぜかひどく安心する自分がいる。
「……」
「クラウス?」
「………………そうだな。一緒に食べようか」
一瞬眉をぴくりとひそめ、ものすごく長い間が空いたあと、クラウス様はやっとコンラート様の申し出を承諾した。言葉と心がひとつもリンクしていないように思えたが、スルーしておく。クラウス様なりに、アトリアに来たばかりで、歩み寄ってくれたクラスメイトを邪険に扱うことは如何なものかと考えた結果だろうから。
「わたくしとコンラート様の昼食は、シェフがもうすぐここまで運んでくれるのだけど、よければクラウス様も一緒にいかが?」
「いいや。俺はユリアーナが持ってきてくれたやつでじゅうぶんだから」
マリー様の厚意を、クラウス様がやんわりと断る。
そのうち、マリー様の家に雇われているシェフが本当にふたりぶんの料理を運んできて、昨日と同じメンバーでのランチタイムが始まった。