せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
本と王子と修復と
留学して、あっという間に三週間が過ぎた。
アトリアでの生活にも、だいぶ馴染めてきた。それはクラウス様も同じようで、毎日アトリアで受ける授業を楽しみにしている。
私は私で、寮での侍女生活を思う存分楽しんでいた。クラーラが効率のいい洗濯方法や、寮の近くにあるお店など、私にとって有益な情報をいろいろと教えてくれる。
最近は、クラーラにあげる予定だった刺繍の名前入りハンカチが出来上がったためそれを渡すと、クラーラもニコルと同じくらい感激してくれていた。刺繍を教わりたいとも言ってくれて、久しぶりに刺繍箱を開けることにもなった。
ほかになにか変わったことといえば――クラウス様が、アトリアでもやはり人気者だということ。これは変わったというより、再認識したって言ったほうがいいかもしれない。
留学仕立てのころは、コンラート様とマリー様以外の生徒は、クラウス様を遠巻きに眺めていることが多かった。しかし最近では、積極的に話しかける者も増えている。
お昼休みに待ち合わせをするたびに、女子生徒がクラウス様を見てはしゃいでいる様子を、この一週間は特に目撃してきた。マリー様がいるとほかの生徒たちも話しかけづらいのか、近づいてはこないけど……。
そんな中でも、いつもクラウス様は私を見つけると変わらず嬉しそうに笑ってくれる。周りの反応が変わっても、クラウス様はなにも変わらない。それが、どうしてか私を安心させた――が。
「……クラウス様がこない」
異変は突然訪れた。
ある日の放課後、いつも真っ先に私に会いに寮に戻ってくるクラウス様が。いつまで経ってもやって来ないのだ。
自主練習での居残りや、なにか用事があるときは、いつも事前に教えてくれているし、私をその場に誘ってくれることも多い。そのため、こんなふうになにも言わず、戻ってこないことは初めてだった。
べつに、ただ単に急に予定ができただけかもしれない。放課後、同級生たちと遊びに行っているのかも。
それはクラウス様の自由であり、逐一私に報告して、私を同行させる必要もない。
私こそ、クラウス様が戻ってこないおかげで自由時間が増えるし、都合がいいじゃない。そうだわ。部屋に戻って、遅めのお昼寝でもしちゃおうっと。クラウス様が何時に戻ってくるかわからないし、三十分程度なら大丈夫よね……。
と、思っていたのに。
知らず知らずのうちに、私の足は学園へと向いていた。そして、あろうころかクラウス様を探し始めている。
――私、なんでこんなことしてるんだろう。戻ってこなくてラッキー!って、喜んでいたのに。
言動と行動がちぐはぐになっていることを不思議に思うが、すぐにひとつの結論へとたどり着く。これはただ、主の安否を確認しておかないといけないという、侍女としての義務感だ。これも侍女の大事な仕事であって、決して、クラウス様がなにをしているのか気になっているわけではない。
しばらく校内をうろうろするも、クラウス様の姿は見当たらない。専属侍女は放課後、学園内の出入りをすることが許されているため、そんなに生徒たちから奇異の目で見られることはなかった。
「ねえ、あれって、クラウス様の……」
こうやって、ひそひそと囁かれることはあるが、留学生のクラウス様は、今や学園内で時の人のため仕方がない。クラウス様がどこへ行ったか彼女たちに聞こうかと思ったが、私が歩み寄ろうとするとなぜかサーッとどこかへ行ってしまう。
……私、通ってもないのに嫌われてる?
真意は謎に包まれたままだが、軽くショックを受けた。
そんなことよりも、クラウス様探知能力に長けていると思われていた私が、こんなにも見つけられないなんて。これは、どこか離れた場所へ行っているのではなかろうか。
せめてなにか手がかりを掴めないかと、隣の棟に作られた広い書庫室の前で立ち止まっていると、中から誰かが出てきた。私はその人物を見ようともせず、下を向いてクラウス様がどこへ行ったのかを考えていると、急に上からぬっと影が落ちてきた。
「……? あっ」
「なにしてるの? ユリアーナさん」
書庫室から出てきたのは、コンラート様だった。手には三冊の本を抱えている。
アトリアでの生活にも、だいぶ馴染めてきた。それはクラウス様も同じようで、毎日アトリアで受ける授業を楽しみにしている。
私は私で、寮での侍女生活を思う存分楽しんでいた。クラーラが効率のいい洗濯方法や、寮の近くにあるお店など、私にとって有益な情報をいろいろと教えてくれる。
最近は、クラーラにあげる予定だった刺繍の名前入りハンカチが出来上がったためそれを渡すと、クラーラもニコルと同じくらい感激してくれていた。刺繍を教わりたいとも言ってくれて、久しぶりに刺繍箱を開けることにもなった。
ほかになにか変わったことといえば――クラウス様が、アトリアでもやはり人気者だということ。これは変わったというより、再認識したって言ったほうがいいかもしれない。
留学仕立てのころは、コンラート様とマリー様以外の生徒は、クラウス様を遠巻きに眺めていることが多かった。しかし最近では、積極的に話しかける者も増えている。
お昼休みに待ち合わせをするたびに、女子生徒がクラウス様を見てはしゃいでいる様子を、この一週間は特に目撃してきた。マリー様がいるとほかの生徒たちも話しかけづらいのか、近づいてはこないけど……。
そんな中でも、いつもクラウス様は私を見つけると変わらず嬉しそうに笑ってくれる。周りの反応が変わっても、クラウス様はなにも変わらない。それが、どうしてか私を安心させた――が。
「……クラウス様がこない」
異変は突然訪れた。
ある日の放課後、いつも真っ先に私に会いに寮に戻ってくるクラウス様が。いつまで経ってもやって来ないのだ。
自主練習での居残りや、なにか用事があるときは、いつも事前に教えてくれているし、私をその場に誘ってくれることも多い。そのため、こんなふうになにも言わず、戻ってこないことは初めてだった。
べつに、ただ単に急に予定ができただけかもしれない。放課後、同級生たちと遊びに行っているのかも。
それはクラウス様の自由であり、逐一私に報告して、私を同行させる必要もない。
私こそ、クラウス様が戻ってこないおかげで自由時間が増えるし、都合がいいじゃない。そうだわ。部屋に戻って、遅めのお昼寝でもしちゃおうっと。クラウス様が何時に戻ってくるかわからないし、三十分程度なら大丈夫よね……。
と、思っていたのに。
知らず知らずのうちに、私の足は学園へと向いていた。そして、あろうころかクラウス様を探し始めている。
――私、なんでこんなことしてるんだろう。戻ってこなくてラッキー!って、喜んでいたのに。
言動と行動がちぐはぐになっていることを不思議に思うが、すぐにひとつの結論へとたどり着く。これはただ、主の安否を確認しておかないといけないという、侍女としての義務感だ。これも侍女の大事な仕事であって、決して、クラウス様がなにをしているのか気になっているわけではない。
しばらく校内をうろうろするも、クラウス様の姿は見当たらない。専属侍女は放課後、学園内の出入りをすることが許されているため、そんなに生徒たちから奇異の目で見られることはなかった。
「ねえ、あれって、クラウス様の……」
こうやって、ひそひそと囁かれることはあるが、留学生のクラウス様は、今や学園内で時の人のため仕方がない。クラウス様がどこへ行ったか彼女たちに聞こうかと思ったが、私が歩み寄ろうとするとなぜかサーッとどこかへ行ってしまう。
……私、通ってもないのに嫌われてる?
真意は謎に包まれたままだが、軽くショックを受けた。
そんなことよりも、クラウス様探知能力に長けていると思われていた私が、こんなにも見つけられないなんて。これは、どこか離れた場所へ行っているのではなかろうか。
せめてなにか手がかりを掴めないかと、隣の棟に作られた広い書庫室の前で立ち止まっていると、中から誰かが出てきた。私はその人物を見ようともせず、下を向いてクラウス様がどこへ行ったのかを考えていると、急に上からぬっと影が落ちてきた。
「……? あっ」
「なにしてるの? ユリアーナさん」
書庫室から出てきたのは、コンラート様だった。手には三冊の本を抱えている。