せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 使った食器を片付けて、書庫室を後にする。
 コンラート様は門まで迎えが来ているため、そこまで一緒に行こうという話になった。ふたりで歩いているところをほかの人に見られるのはどうかな……と思ったが、日暮れ前だからか、生徒たちはほとんどいなくなっていた。
 私はコンラート様を見送ると、もうしばらく、門でクラウス様を待つことにする。コンラート様も一緒に待っていてくれると言っていたが、もう馬車も来ていたため、気持ちだけ有難く受け取ることにした。
……まだ帰っていないと踏んでここにいるけど、もしかしたら、入れ違いになっている可能性もあるわよね。
 既にクラウス様は寮に戻っていて、私のことを探していたりしたら、完全なる入れ違いだ。一度おとなしく寮に戻ってみるのが得策かも。
 そう思い直し、私が寮に戻ろうとすると、門の向こう側から、マリー様の笑い声が聞こえた。
「うふふっ! クラウス様ったら!」
 なにを話しているのかわからないが、遠目でも、距離の近いふたりが見える。マリー様の高い笑い声が上がるたびに、その時間がふたりにとって楽しいものなのだと、教えられているみたいだ。
「マリーは面白い子だな」
 次第に距離が近づいて、クラウス様の声も聞こえてきた。
 仲良くマリー様と肩を並べて、笑い合っているクラウス様が私の視界に飛び込んでくる。私はなぜか、その光景からさっと目を逸らしてしまった。
 この行き場のない気持ちをどうしたらいいのか。胸のもやもやが止まらない。最近の私は、ずっとこのもやもやの行先を探して、苦しんでいる。
 ――私がクラウス様を好きになったら、私たちの未来はどうなるんだろう。シナリオなんて関係なく、幸せになれるのかな。
 そう思ってすぐ、私は我に返る。
 小説のエンディング……クラウス様が学園を卒業するまでは、恋だの愛だのしている場合じゃないって決めたじゃない!
 変な気を起こして、結局破滅なんてしたら、私がしてきたことが全部無駄になる。
 私がクラウス様への気持ちに名前をつけていいのは――エンディング後の世界で、私が断罪されていないとき。
 それまでは……主人と侍女の関係のまま、平和に生きていけたらそれでいい。
 私は自分で自分を奮い立たせることで、もやっとする気持ちを跳ね返すと、そのままクラウス様に声をかけることなく、ひとりでその場を立ち去った。

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