せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~

所有の証

 先に寮に戻ると、侍女用に部屋が設けられているフロアの入り口に、見知った人影があった。
「クラーラ!」
「あっ、ユ、ユリアーナ……」
 クラーラは終始落ち着かない様子だ。
 とりあえず部屋に招き入れようと思ったが、クラーラの部屋が近いため、そちらにお邪魔させてもらうことになった。
椅子に座るよう促され、クラーラは気まずそうな顔を浮かべて私の横に立ち尽くしたまま、なかなか口を開かない。
「どうしたの? 私に用があって、待っていたんでしょう?」
「そうなんだけど……その、ごめんなさいっ!」
 クラーラは耐えきれなくなったように、私に頭を下げて謝った。まず、なんに対しての謝罪なのかを教えてほしいところではあるが……大体、見当はついている。
「マリー様に……ユリアーナのギフトのことを話してしまって……」
 やはり、私の予想は当たっていたようだ。
「うん。だろうなって思ってた。でも、なにか事情があったんでしょう? 怒ってないから顔を上げて。それより、マリー様にまた怒られたりしてない?」
 心配になってクラーラの顔を覗き込むと、目尻に涙をためたクラーラが、私の言葉を聞いてぽかんとしている。
「……怒ってないの? どうして!? 勝手に喋ったのに!」
 なぜか私がクラーラに詰められるという、変な構図になっている。
「私も絶対言うなって口止めをしていたわけじゃあないし……さっきも言ったけど、事情があったのかなって。たとえば――私が直してあげたクラーラのガラス細工がマリー様に見つかって、どうやって直したのかマリー様に問い詰められた、とか」
「……すごい。全部当たってる。もしかして、ユリアーナってエスパーなの?」
 エスパーなんて超次元能力を持っていたら、悪役令嬢ユリアーナは断罪されるなんてバッドエンドを迎えなかったと思う。
 それよりも真顔で私に問うクラーラがおもしろくて、おもわず吹き出しそうになった。クラーラって天然なのかしら。
「ほら。あそこにガラス細工を置いているでしょう。きちんと自分の部屋に移動させていたんだけど、今朝急に、マリー様がやって来て……。早めに目が覚めたからお茶を淹れろって用事だったんだけど、そのとき、ガラス細工が見つかっちゃったの」
クラーラは、棚の上に置いたガラス細工を指さして言う。
その流れで、クラーラはうまく誤魔化せずに話してしまったと。
「マリー様は自分以外の女性が注目を浴びることを嫌がるので、逆にユリアーナがギフトを持っていることは、口外しないと思うんだけど……大丈夫だった? 私、ずっとそれが気になってて。今の今まで言えなくてごめんなさい」
 私に打ち明けるタイミングを逃してしまい、居ても立っても居られなくなり私の帰りを待ってくれたのだろう。そんなクラーラを遅くまで待たせてしまったことに、私は罪悪感を感じた。
「大丈夫――って言いたいところなんだけど、コンラート様には言っちゃったみたい」
「コンラート様にっ!? ……いちばん言わなそうな相手なのに、どうしちゃったのかしら。マリー様」
 クラーラの言うように、他の人が注目されることを嫌う性格なら、たしかにいつも近い距離にいるコンラート様に敢えて言う理由がなさそう。
 それなのに敢えて言ったってことは……コンラート様を私に近づける理由を作りたかったようにも思える。
まさか、クラウス様と話すのに私が邪魔だから……とか?
内心、そんな想いが頭の中を駆け巡ったが、勝手な想像で決めつけるのはよくない。
「どうしたのユリアーナ。もしかして、コンラート様に知られてしまったことで困ったり……」
「へっ? 全然、そんなことないわ! だから、クラーラはなにも心配しないで」
 私は再度クラーラを宥めると、クラーラは遠慮がちに頷いた。
 アトリアではギフトを使う出番はあまりないと思っていたが、既に二回もあった。もしかすると、これから増えていくかもしれない。
 でも、それが人の役に立つことなら、私は喜んで修復しようと決めた。
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