せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
言葉のギフト
「アトリアでは、シュトランツ家の侍女代表として、シュトランツ家の名に恥じない振る舞いをするのよ! ユリアーナ!」
出発の朝。私は侍女長であるイーダさんから激励を受けていた。
「はい! 頑張ります侍女長!」
「……返事だけは百点なのよねぇ」
腰に手をあてて、イーダさんは眉を下げて笑う。初期は怒られてばかりだが、最近は褒められることも増えてきた。とはいっても、その倍くらい怒られているのだけれど。
「ユリアーナ、しばらくは寂しくなるわね」
「ニコル!」
今度は、ニコルがしばしの別れを惜しむように話しかけてきた。
ニコルとはここへ来てからずっと同部屋で、紆余屈折がありながらも、互いに認め合い今では親友ともいえる仲だ。
「私も毎晩のニコルとの女子会ができないと思うと寂しいわ……」
「戻ってきたら、アトリアの話をたくさん聞かせてちょうだいね。それと、なにかあったらこの魔法具で通信を飛ばして。緊急事態があったとき、シュトランツ家とすぐに連絡がとれるようになっているわ」
クラウス様にもひとつ渡しているからと、ニコルが私に通信魔法具を渡してくれた。前世で言う、携帯電話のようなものだろうか。勾玉のような石にボタンがひとつついており、それを押すと、ニコルに繋がるという。
「ありがとう! これがあれば、寂しい夜もへっちゃらね」
「だめよ。この魔法具には制限があるの。通信できるのは二回が限界。それ以上は魔力の効果が切れてかからないわ。だから使用するタイミングは見極めたほうがいいかもしれないわね」
「えぇ、そうなの? ちゃんと見極められるか不安だわ……」
私は自分自身を心配しながら、通信魔法具を鞄に入れた。
「そろそろ出発ね。……クラウス様は、公爵様とずっと話し込んでいるけど……私たちみたいに、別れを惜しまれているのかしら」
ニコルが微笑ましそうにそう言ったため、私も馬車の前で両親と話すクラウス様に視線をやった。
クラウス様は終始真面目な顔をしていて、とても雰囲気はよさそうには見えない。時折シュトランツ公爵が「わかったな」となにかを言い聞かせているような声がうっすらと聞こえる。
数分経って、やっと話が終わったようで、クラウス様が私に手招きをした。
荷物を抱えて最後にニコルとイーダさんのほうを振り返ると、ふたりは笑顔で力強く頷いてくれた。
私も頷きを返し、馬車へ乗り込む。
――行くからには、侍女として頑張ってこよう!
ニコルとイーダさんから激励を受け、私の中にそんな想いが込み上げてきた。
馬車はゆっくりと走り出し、シュトランツ公爵家が次第に遠のいて行く。王都を抜けてからは徐々にスピードが増していき、窓の外から見える景色は一瞬にして過ぎ去る。
「行くまでは憂鬱だったが、いざ出発すると、なんだか旅行へ行くみたいでわくわくするな」
向かいの椅子に座っているクラウス様が、外を眺めてそう言った。
出発の朝。私は侍女長であるイーダさんから激励を受けていた。
「はい! 頑張ります侍女長!」
「……返事だけは百点なのよねぇ」
腰に手をあてて、イーダさんは眉を下げて笑う。初期は怒られてばかりだが、最近は褒められることも増えてきた。とはいっても、その倍くらい怒られているのだけれど。
「ユリアーナ、しばらくは寂しくなるわね」
「ニコル!」
今度は、ニコルがしばしの別れを惜しむように話しかけてきた。
ニコルとはここへ来てからずっと同部屋で、紆余屈折がありながらも、互いに認め合い今では親友ともいえる仲だ。
「私も毎晩のニコルとの女子会ができないと思うと寂しいわ……」
「戻ってきたら、アトリアの話をたくさん聞かせてちょうだいね。それと、なにかあったらこの魔法具で通信を飛ばして。緊急事態があったとき、シュトランツ家とすぐに連絡がとれるようになっているわ」
クラウス様にもひとつ渡しているからと、ニコルが私に通信魔法具を渡してくれた。前世で言う、携帯電話のようなものだろうか。勾玉のような石にボタンがひとつついており、それを押すと、ニコルに繋がるという。
「ありがとう! これがあれば、寂しい夜もへっちゃらね」
「だめよ。この魔法具には制限があるの。通信できるのは二回が限界。それ以上は魔力の効果が切れてかからないわ。だから使用するタイミングは見極めたほうがいいかもしれないわね」
「えぇ、そうなの? ちゃんと見極められるか不安だわ……」
私は自分自身を心配しながら、通信魔法具を鞄に入れた。
「そろそろ出発ね。……クラウス様は、公爵様とずっと話し込んでいるけど……私たちみたいに、別れを惜しまれているのかしら」
ニコルが微笑ましそうにそう言ったため、私も馬車の前で両親と話すクラウス様に視線をやった。
クラウス様は終始真面目な顔をしていて、とても雰囲気はよさそうには見えない。時折シュトランツ公爵が「わかったな」となにかを言い聞かせているような声がうっすらと聞こえる。
数分経って、やっと話が終わったようで、クラウス様が私に手招きをした。
荷物を抱えて最後にニコルとイーダさんのほうを振り返ると、ふたりは笑顔で力強く頷いてくれた。
私も頷きを返し、馬車へ乗り込む。
――行くからには、侍女として頑張ってこよう!
ニコルとイーダさんから激励を受け、私の中にそんな想いが込み上げてきた。
馬車はゆっくりと走り出し、シュトランツ公爵家が次第に遠のいて行く。王都を抜けてからは徐々にスピードが増していき、窓の外から見える景色は一瞬にして過ぎ去る。
「行くまでは憂鬱だったが、いざ出発すると、なんだか旅行へ行くみたいでわくわくするな」
向かいの椅子に座っているクラウス様が、外を眺めてそう言った。