バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
その日は琴子の家のリビングにある大きなテレビで、再放送のドラマを観ていた。
それは学園が舞台のラブストーリーだった。
主人公の女の子が好きな男子に告白をし、相思相愛になったふたりはぎこちないキスをした。
息を殺してテレビ画面をみつめていたすみれと琴子は、そのシーンを見終わると、ほーっと長い息を吐き出した。
「恋かあ。いいなー。」
琴子が夢見る乙女のように瞳をキラキラさせて両手を組んだ。
「でも恋ってどうやってするんだろう?」
「すみれ、恋っていうのはするものじゃないの。落ちるものなんだよ。気が付いたらその人のことばかり考えちゃうんだって。それが恋なんだって。」
「そんなこと誰に聞いたの?」
「従姉の咲子ちゃん。咲子ちゃんは中学2年生で、もう彼氏がいるんだよ。」
「へえ。」
琴子の家は母親がシングルマザーだった。
「ママは働きに出ていて帰りも遅くなるんだ。ひとりで家にいるのは淋しいから、すみれも気を使わずに遅くまでいてくれていいよ。」
すみれが帰ろうとすると、琴子はそう言ってすみれを引き留める。
けれどすみれは6時の鐘が街に流れると同時に、琴子の家を出ると決めていた。
遅くなると航君と桔梗お祖母ちゃんが心配する。
だから決められた時間に家に帰る。
すみれの中でそれは絶対的なルールだった。
「すみれの叔父さんってそんなに怖い人なの?」
琴子の問いかけにすみれは目を丸くした。
「全然怖くないよ。怒られたことなんて一回もない。」
「それはすみれがいい子にしてるからだよ。私なんてママに怒られてばっかり。早く寝なさい、勉強しなさい、部屋を片付けなさい、ってすごくうるさいの。」
「ふーん。」
「ね。今度すみれの家にも遊びに行っていい?」
「うん。いいよ。ウチにはうさぎのららがいるから、来た時に会わせてあげる。」
「ほんと?うさぎ可愛いよね!」
「うん。可愛いよ。航君が飼ってもいいよって一緒にペットショップに行ったんだ。」
「すみれ、叔父さんのことばかり話すよね。ファザコン・・・じゃないか。オジコンだ!」
「そんなことないよ。」
そう抵抗しつつも、もしそんな言葉があるのなら自分はオジコンなのかもしれないとすみれは思った。
帰り道、すみれは学園ドラマの恋人達がキスしている場面を思い出していた。
夕焼けの空は赤く、誰もいない公園で、ふたりはそっと唇を重ねる。
ふとすみれは航の唇が自分の唇に触れることを想像した。
胸の鼓動がドキドキと早くなり、顔が赤く火照った。
それは幼く柔らかいすみれの心に、甘い痛みとかすかな罪悪感を運んできた。
こんなこと考えるなんていけないことだろうか?
恥ずかしいことだろうか?
でも・・・。
「大人になったら航君とキスしたいな・・・。」
このとき初めてすみれは、航への「恋」を自覚した。
それは学園が舞台のラブストーリーだった。
主人公の女の子が好きな男子に告白をし、相思相愛になったふたりはぎこちないキスをした。
息を殺してテレビ画面をみつめていたすみれと琴子は、そのシーンを見終わると、ほーっと長い息を吐き出した。
「恋かあ。いいなー。」
琴子が夢見る乙女のように瞳をキラキラさせて両手を組んだ。
「でも恋ってどうやってするんだろう?」
「すみれ、恋っていうのはするものじゃないの。落ちるものなんだよ。気が付いたらその人のことばかり考えちゃうんだって。それが恋なんだって。」
「そんなこと誰に聞いたの?」
「従姉の咲子ちゃん。咲子ちゃんは中学2年生で、もう彼氏がいるんだよ。」
「へえ。」
琴子の家は母親がシングルマザーだった。
「ママは働きに出ていて帰りも遅くなるんだ。ひとりで家にいるのは淋しいから、すみれも気を使わずに遅くまでいてくれていいよ。」
すみれが帰ろうとすると、琴子はそう言ってすみれを引き留める。
けれどすみれは6時の鐘が街に流れると同時に、琴子の家を出ると決めていた。
遅くなると航君と桔梗お祖母ちゃんが心配する。
だから決められた時間に家に帰る。
すみれの中でそれは絶対的なルールだった。
「すみれの叔父さんってそんなに怖い人なの?」
琴子の問いかけにすみれは目を丸くした。
「全然怖くないよ。怒られたことなんて一回もない。」
「それはすみれがいい子にしてるからだよ。私なんてママに怒られてばっかり。早く寝なさい、勉強しなさい、部屋を片付けなさい、ってすごくうるさいの。」
「ふーん。」
「ね。今度すみれの家にも遊びに行っていい?」
「うん。いいよ。ウチにはうさぎのららがいるから、来た時に会わせてあげる。」
「ほんと?うさぎ可愛いよね!」
「うん。可愛いよ。航君が飼ってもいいよって一緒にペットショップに行ったんだ。」
「すみれ、叔父さんのことばかり話すよね。ファザコン・・・じゃないか。オジコンだ!」
「そんなことないよ。」
そう抵抗しつつも、もしそんな言葉があるのなら自分はオジコンなのかもしれないとすみれは思った。
帰り道、すみれは学園ドラマの恋人達がキスしている場面を思い出していた。
夕焼けの空は赤く、誰もいない公園で、ふたりはそっと唇を重ねる。
ふとすみれは航の唇が自分の唇に触れることを想像した。
胸の鼓動がドキドキと早くなり、顔が赤く火照った。
それは幼く柔らかいすみれの心に、甘い痛みとかすかな罪悪感を運んできた。
こんなこと考えるなんていけないことだろうか?
恥ずかしいことだろうか?
でも・・・。
「大人になったら航君とキスしたいな・・・。」
このとき初めてすみれは、航への「恋」を自覚した。