バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
絶望の人生
小学校を卒業し、中学生になってもすみれと琴子は仲が良く、お互いを親友と認めていた。

「すみれの髪、サラサラしていて綺麗。」

琴子は教室ですみれの髪を三つ編みにしながら、そうため息をついた。

その日は琴子と、同じ班のみゆきの3人で、お互いの髪をいじり合っていた。

「琴子は髪の毛、伸ばさないの?」

「うん。私は髪が多いから伸ばすとシャンプーが大変なんだ。」

「そう。」

「でも人の髪をいじるのが好きだから、将来美容師になろうかなって思ってる。」

「私はユーチューバー!」

みゆきが片手を上げてそう叫んだ。

「なにを配信するの?」

すみれが尋ねると、みゆきがうーんと頭を悩ませた。

「それはまだノープランなんだよね。」

「歌ってみた、をやれば?」

「えー私、歌下手だもん。」

「じゃあこのお菓子食べてみた、とか?」

「お菓子ばっか食べてたら太っちゃうよ。」

「文句ばっかり言ってないで自分で何か考えなよね。」

琴子がそう言って口を尖らすと、みゆきがあ!と何かを思いついたように声を上げた。

「やっぱりユーチューバー辞める。アイドルになる!」

「はいはい。」

琴子は呆れたように相槌を打った。

「もう将来の夢があるんだ。いいなぁ。私なんかまだ何も考えてない。何か人の役に立てる仕事がいいなーって思ってるんだけど。」

「すみれは優等生だなー。」

そうみゆきがからかった。

でも本当はひとつだけ夢がある。

すみれはそれを琴子とみゆきに打ち明けた。

「でもね、私ひとつだけ夢があるんだ。」

「えーなになに?」

すみれは琴子とみゆきの耳に自分の口元を寄せて、内緒話をするように囁いた。

「あのね。私、お嫁さんになりたいの。」

「えー?誰の?イケメンの宮野君?」

みゆきはクラスで一番女子人気のあるクラスメートの名前を挙げた。

「ううん。航君。」

みゆきは自分の耳元から身体を離したすみれに、眉間を寄せてしかめ面をしてみせた。

「航君ってすみれと一緒に住んでる叔父さんだよね。」

「そうだよ。」

「あのさあ・・・叔父と姪は結婚できないんだよ?知らないの?」

「え?」

「叔父さんなんてお父さんみたいなもんじゃん。気持ち悪いからやめたほうがいいよ。それに法律に反するのは悪いことなんだよ。」

みゆきの言葉にすみれは激しいショックを受けた。

私と航君て結婚出来ないの?

私が航君のお嫁さんになることは気持ち悪いの?

航君を好きなことは悪いことなの?

死んだら地獄に堕ちる?

「気持ち悪くなんかないよ。好きっていう気持ちにいいも悪いもない。」

琴子にそう励まされてもすみれの心は晴れなかった。

すみれは祈るような思いでネットで「叔父と姪 結婚」と検索した。

するとどのサイトにも「三親等以内の傍系血族は結婚出来ない」と記載されていた。

叔父と姪が法律上結婚出来ないことを初めて知ったすみれは、その事実にただ打ちのめされていた。

すみれの夢は早くも崩れ去り、絶望で食事も喉を通らなくなった。

航君と結婚できないのなら死んだ方がまし、とまで思い詰めた。

様子のおかしい自分を、航が心配しているのはわかっていた。

けれどすみれは、その理由を航に打ち明けることが、どうしても出来なかった。

その日の夕食も、すみれは好物のハンバーグを残した。

しばらくは静観していた航が、とうとうすみれを問いただした。

「すみれ。最近どうしたんだ?ずっと顔色が悪いし、食事もほとんど残しているじゃないか。心配事があるなら言ってくれないか?」

そう話しかける航をすみれは睨みつけた。

どうして航君は私と結婚出来ないことを教えてくれなかったの?

もっと早くから教えてくれていれば私は・・・私は・・・。

ううん。それでも私は変わらず航君が好きだっただろうし、これからもそれは変わらない。

「一人で抱え込まないって約束しただろ?悩みがあるなら何でも言ってごらん。一緒に考えればきっと解決策が見えてくるはずだ。」

けれどすみれはその理由を問われても、答えることなど出来なかった。

貴方と結婚出来ない人生に絶望しました、そう言ったら航君はどういう反応を示すのだろう。

そんなのわかっている。

きっと航君を困らせるだけだ。

「航君には関係ない。私のことは放っておいて!」

「反抗期だよ。そっとしておきな。」

桔梗がのんびりとそう言い、航が大きなため息をつくのを背中で感じながら、すみれは自分の部屋へ逃げ込んだ。
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