バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
「ねえ。一緒に遊園地に行かない?」
自分でもいささか言葉足らずだと思ったけれど時すでに遅し。
どう切り出していいか見当もつかなかったすみれは、文芸部の活動時間が終わり席を立った大原の背中にいきなりそう声を掛けた。
振り向いた大原は訝し気にすみれの顔を睨んだ。
それはそうだろう。
今までひと言も話したこともない女子にそんなことを突然言われても、反応に困るだけだ。
しかし大原はなんの躊躇もなく、すぐさまその答えを口にした。
「断る。」
そうハッキリとその言葉を吐きだすと、すみれに一瞥もくれずカバンを持ち立ち去ろうとした。
「ごめん!待って。私の話を聞いて。」
すみれの必死な訴えに大原はもう一度振り向くと、心底嫌そうに顔を歪めた。
「なに?僕、早く帰りたいんだけど。」
「大原君って綿貫君と仲がいいでしょ?」
すみれの問いかけに大原の片方の眉がピクリと動いた。
しかしすぐにいつもの無表情に戻ると、相変わらずの冷たい声で答えた。
「それが何?」
すみれは大原が立ち去るのをブロックするように、ドアの方へ身体を移動させた。
「あのね。同じクラスの川中琴子がね。あ、琴子は私の親友なんだけど・・・琴子が綿貫君と遊びに行きたいんだって。でもいきなり二人きりじゃ恥ずかしいって言うの。だから琴子と私と綿貫君と大原君で、遊園地に行けたらなって思ったんだけど、大原君的にはどう?」
「それはつまり、川中さんが直人を好きだっていうこと?」
「うん。まあ・・・そういうこと。」
大原は怒ったような表情を隠さずにすみれから視線を外すと、小さく鼻から息を吐いた。
「それならなおさら断る。」
「そう言わずにお願い。琴子はああみえて恥ずかしがり屋なの。」
「そんなもん知るか。」
大原はすげなくそう言うと、再びカバンを勢いよく肩にかけ、すみれから逃げる様に図書室から出て行った。
「・・・断られちゃった。琴子、ごめん。」
すみれはそうつぶやき、ふと足元を見た。
そこには黒いパスケースが落ちていた。
今さっき出て行った大原のものだろうと思いながら、すみれはそのパスケースを拾った。
思った通りそのパスケースには、大原の名前が記載されている定期券が挟まっていた。
そしてその裏面には一枚の写真・・・。
それを見たすみれはしばし固まった。
そうか。だから大原君はあんなに頑なに私の誘いを断ったんだ。
すると廊下からバタバタと大きな足音が聞こえ、大原が図書室に戻って来た。
急いで走ってきたのだろう。
息を切らしながら大原はすみれに近づいた。
そしてすみれがパスケースを持っているのを見て、絶望的な顔をした。
「見たの?」
すみれはそのパスケースを大原に差し出した。
「ごめん。見た。」
「・・・・・・。」
「その・・・大原君も好きだったんだね。」
「それ以上言うな。」
「ごめんなさい。大原君の気持ちも考えず、変なこと頼んじゃって。忘れて下さい。」
「同情するような目で見るな。」
「だって。」
「・・・いいよ。行こうか。遊園地。」
「・・・・・・。」
「川中さんと直人、お似合いだよ。ふたりの恋に協力する。僕もこんな不毛な片想いには決着をつけたいと思っていたし。いいきっかけになる。」
「いいの?それで。」
「いいもなにも、君が持ちかけてきたんじゃないか?」
「そうだけど・・・」
悲し気にパスケースの写真をみつめる大原の痛々しくも切なげな横顔を、すみれはなぜか美しいと感じていた。
そのパスケースには眩しいほどの笑顔でVサインをしている綿貫の写真が挟まっていた。
自分でもいささか言葉足らずだと思ったけれど時すでに遅し。
どう切り出していいか見当もつかなかったすみれは、文芸部の活動時間が終わり席を立った大原の背中にいきなりそう声を掛けた。
振り向いた大原は訝し気にすみれの顔を睨んだ。
それはそうだろう。
今までひと言も話したこともない女子にそんなことを突然言われても、反応に困るだけだ。
しかし大原はなんの躊躇もなく、すぐさまその答えを口にした。
「断る。」
そうハッキリとその言葉を吐きだすと、すみれに一瞥もくれずカバンを持ち立ち去ろうとした。
「ごめん!待って。私の話を聞いて。」
すみれの必死な訴えに大原はもう一度振り向くと、心底嫌そうに顔を歪めた。
「なに?僕、早く帰りたいんだけど。」
「大原君って綿貫君と仲がいいでしょ?」
すみれの問いかけに大原の片方の眉がピクリと動いた。
しかしすぐにいつもの無表情に戻ると、相変わらずの冷たい声で答えた。
「それが何?」
すみれは大原が立ち去るのをブロックするように、ドアの方へ身体を移動させた。
「あのね。同じクラスの川中琴子がね。あ、琴子は私の親友なんだけど・・・琴子が綿貫君と遊びに行きたいんだって。でもいきなり二人きりじゃ恥ずかしいって言うの。だから琴子と私と綿貫君と大原君で、遊園地に行けたらなって思ったんだけど、大原君的にはどう?」
「それはつまり、川中さんが直人を好きだっていうこと?」
「うん。まあ・・・そういうこと。」
大原は怒ったような表情を隠さずにすみれから視線を外すと、小さく鼻から息を吐いた。
「それならなおさら断る。」
「そう言わずにお願い。琴子はああみえて恥ずかしがり屋なの。」
「そんなもん知るか。」
大原はすげなくそう言うと、再びカバンを勢いよく肩にかけ、すみれから逃げる様に図書室から出て行った。
「・・・断られちゃった。琴子、ごめん。」
すみれはそうつぶやき、ふと足元を見た。
そこには黒いパスケースが落ちていた。
今さっき出て行った大原のものだろうと思いながら、すみれはそのパスケースを拾った。
思った通りそのパスケースには、大原の名前が記載されている定期券が挟まっていた。
そしてその裏面には一枚の写真・・・。
それを見たすみれはしばし固まった。
そうか。だから大原君はあんなに頑なに私の誘いを断ったんだ。
すると廊下からバタバタと大きな足音が聞こえ、大原が図書室に戻って来た。
急いで走ってきたのだろう。
息を切らしながら大原はすみれに近づいた。
そしてすみれがパスケースを持っているのを見て、絶望的な顔をした。
「見たの?」
すみれはそのパスケースを大原に差し出した。
「ごめん。見た。」
「・・・・・・。」
「その・・・大原君も好きだったんだね。」
「それ以上言うな。」
「ごめんなさい。大原君の気持ちも考えず、変なこと頼んじゃって。忘れて下さい。」
「同情するような目で見るな。」
「だって。」
「・・・いいよ。行こうか。遊園地。」
「・・・・・・。」
「川中さんと直人、お似合いだよ。ふたりの恋に協力する。僕もこんな不毛な片想いには決着をつけたいと思っていたし。いいきっかけになる。」
「いいの?それで。」
「いいもなにも、君が持ちかけてきたんじゃないか?」
「そうだけど・・・」
悲し気にパスケースの写真をみつめる大原の痛々しくも切なげな横顔を、すみれはなぜか美しいと感じていた。
そのパスケースには眩しいほどの笑顔でVサインをしている綿貫の写真が挟まっていた。