バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー

観覧車は水色の明るい空へ向かってぐんぐんと進んでいった。

上の観覧車の窓から琴子と綿貫がすみれと大原に向かって手を振っている。

すみれと大原もそれに応えて大きく手を振った。

「告白する気はないの？」

「出来るわけないだろ？直人は女の子が好きなんだ。僕が恋愛感情を持っていることを直人に知られたらきっと気持ち悪い奴だと思われる。そして僕から離れていくに決まっている。それだけは絶対に嫌だ。」

「気持ち悪い」という言葉にすみれの胸がずきんと痛んだ。

大原君の恋の痛みは私と同じ種類のものだ・・・すみれはそう思った。

「直人にはもっとお前も友達を作れって言われるんだけど、僕は内弁慶だし直人のように上手くいかなくて。」

「綿貫君は大原君を心配しているんだよ。心から大原君のことを大事に思ってる。」

「・・・野口さんは僕が気持ち悪くないの？男が好きな男なんて・・・。」

すみれは真面目な顔で大原を見た。

「なに言ってるの。男同士で好きになっても女同士で好きになってもいいじゃない。好きっていう気持ちは大事にしなきゃ。」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど・・・。」

「ねえ大原君。私と友達になろうよ！」

気付くとすみれはそう口にしていた。

「え・・・？」

すみれの申し出に、大原はぽかんと口を半開きにした。

「私も大原君と同じ。人に言ったら気持ち悪いと言われてしまうような恋をしてるんだ。だから大原君の気持ちが良くわかる。誰にも言えない恋って辛いよね。」

「野口さんは・・・どんな恋をしてるの？」

大原は初めてすみれに興味を持ったようだった。

「私は・・・一緒に暮らしている航君が好きなの。出会った時から、ずっと・・・。」

「航君？」

「うん。私の叔父さん。」

「叔父さん・・・それじゃ、かなり歳が離れてるんじゃないの？」

「そう。１５歳離れてる。」

「ふーん。でも好きになるのに歳は関係ないよ。頑張ってみれば？」

「うん。・・・でも叔父と姪はどうやっても結婚できないの。だから頑張りようがない。私も大原君と同じ、到底叶いそうもない恋をしてるんだ。」

「その叔父さんってどんな人？」

「私の生きる道しるべのような人。色んなことを教えてくれて、優しくて、朗らかで、一緒にいると心がポカポカと温かくなるの。航君のいない人生なんて考えられない。」

すみれは観覧車の窓から車や人が小さく見える街並みを眺め、その景色のどこかにいるであろう航のことを思い浮かべた。

何故だか泣きそうな気持ちになり、いますぐ航が待つ家に帰りたくなった。

「・・・そうだね。僕達友達になれそうだ。想いが抱えきれなくなったら、野口さんは僕に話せばいい。」

「うん。私も大原君の話を聞くよ。」

こうしてすみれと大原は秘密の恋を共有しあうことになった。



その後、琴子は綿貫に振られてしまった。

理由は「今はそういう気分じゃない」という曖昧なものだった。

綿貫に好きな女の子がいるわけではないものの、琴子の落ち込みは激しく、すみれは暫くその慰め役に徹した。

一方大原はその結果にホッとしているようだった。

あからさまに顔に出してはいないけれど、すみれにはわかった。

すみれの目には、もしかしたら綿貫も大原を好きなのではないか・・・と思えた。

ボディタッチが友達同士にしては多いし、綿貫は大原に特別な感情を持っているように見えた。

二人を見ていると仲の良い子犬がじゃれ合っているようでなんだか微笑ましい。

大原君の恋が実ればいいな・・・すみれは心からそう思った。