バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
秋風ゆれて
近所の神社で毎年恒例の秋祭りが始まった。

「縁日でもいくか?」

航にそう誘われて、すみれの心は踊り、二つ返事で頷いた。

桔梗に浴衣を着つけてもらったすみれは、髪を結いあげて藤の花のヘアピンで前髪を留めた。

白地に紫陽花模様の、お気に入りの浴衣だった。

「お祖母ちゃん、早く早く!」

すみれの急かす声に、桔梗が呆れた声を出しながら浴衣の黄色い帯を結んだ。

「全くこの子は、高校生にもなって子供みたいにはしゃいで。」

久しぶりの航とのお出かけに、すみれの胸は弾んでいた。

すみれの浴衣姿を見た航は、少し眩しそうな表情をして言った。

「すみれ、可愛いよ。」

すみれの頬が淡く染まり、嬉しさで口元がにやけた。

草履を履いたすみれは、黒いポロシャツにジーパン姿の航の手を握って神社へ向かった。

神社に近づくに連れて、笛や太鼓といったお囃子の音がだんだんと大きく聞こえてきた。

大きな朱色の鳥居をくぐり石の階段を上ると、参道の両脇に提灯が灯され、沢山の屋台が並んでいた。

屋台からはタコ焼きや焼きそばの美味しそうな匂いが漂い、何を食べようか目移りしてしまう。

藍色の空には小さな星々が瞬き、湿った空気をかきまぜるように涼しい秋風が木々の葉を揺らした。

右手で握りしめた航の手の平は、いつもより少し冷たく感じた。

濃紺や山吹色や桃色の色鮮やかなヨーヨーがビニールプールの水面に浮かぶのを見つけ、すみれはそれを指差した。

「あれ、取りたいな。」

「よし。じゃあ行ってこい。」

すみれは頭に赤いバンダナを巻いているおじさんに100円玉を渡し、ビニールプールの側でしゃがみこむと、こよりを使ってヨーヨーについているゴムの丸い部分を狙って釣り上げようとした。

すみれが狙ったのは若草色のヨーヨーだった。

航が大切にしている愛車の色だ。

何回かチャレンジしたけれど、こよりが水で濡れてしまい、ことごとく失敗してしまった。

「あー・・・。」

すみれががっかりしてそう声を漏らすと、航がにやりと笑いながら、いつのまに釣ったのかすみれの目の前に若草色のヨーヨーを差し出した。

「ほらよ。」

「ありがとう!」

「ヨーヨー釣りにはコツがある。水に沈んでいるヨーヨーは避けること。そしてこよりを短く持つこと。あとは集中力だ。」

「うん。わかった。次からそうする。」

すみれは立ち上がると、指にゴムの丸い部分をひっかけて、ヨーヨーを叩いた。

ヨーヨーの中に入っている水が涼し気な音を立てた。

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