バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
すみれと航は再び参道を、航はイカ焼きをすみれは綿あめを齧りながら、ゆっくりと歩いた。
左端を歩くすみれと航の横を、若い男女グループが大きな声で騒ぎながら、酔っているのか千鳥足でフラフラと歩いていた。
その中のタンクトップを着た金髪の女性が、すみれと航をちらりと見て、大きな声で他の仲間に告げた。
その言葉は否が応でもすみれと航の耳に入ってきた。
「うわー。大人しそうな顔してパパ活かよ。」
その言葉を受けて他の仲間もすみれと航の方を向き、冷やかすような口笛を吹いた。
「清楚系ビッチってヤツ?」
「オジサン、もうヤリましたかあ?」
一団は大きな声で笑い、叫びながら遠ざかっていった。
その心無い言葉の数々に、すみれの身体は氷水を浴びせられたように冷え、肩が小刻みに震えた。
大切な航とのひとときに泥水をかけられたような気持ちになり、怒りで涙が目尻に滲んだ。
そのときすみれの右手を握りしめていた航の手がスッと離れた。
すみれと航の間に薄く透明な、けれど明らかに強固な膜が張られてしまった瞬間だった。
航君・・・?
すみれは怖くて航の顔が見れなかった。
もし航の顔がすみれの知らない他人行儀な表情を作っていたら・・・。
けれど恐る恐る横を向いて見上げたすみれに、航はいつもと変わらない優しい笑みを見せた。
「そろそろ帰るか。」
「うん。」
その笑顔に安心したすみれは、再び航と手を繋ごうとした。
けれど航はゆっくりとすみれの右手を押し戻した。
「・・・航君?」
「俺は何を言われても構わないが、すみれが侮辱されるのは我慢できない。すみれを傷つける奴は絶対に許さない。」
聞いたことのないような低くくぐもった声で、航はそうつぶやいた。
「私なら大丈夫だよ?」
「いや・・・手を繋ぐのはやめておこうか。すみれはもう小さな子供じゃない。俺の配慮が足りなかったんだ。ごめんな。すみれに嫌な思いをさせて。」
「謝らないで。私はまだ子供だよ?航君と手を繋ぎたいよ。」
「・・・すみれが好奇の目で見られるのは、俺が耐えられないんだよ。」
航君、私から離れていかないで・・・。
私が童顔じゃなかったら、もう少し背が高かったら、もっと大人っぽい女の子だったら、航君にこんな思いをさせることもなかったのに・・・。
すみれは自分の幼い容姿が心底恨めしかった。
この時から航はすみれに一切触らなくなった。
手を握ることはもちろん、背中や頭をぽんぽんと軽く叩くこともしなくなった。
それはすみれにとって、身を切られるくらいに悲しく淋しいことだった。
これが大人になるということなら、大人になんてなりたくなかった。
いつまでも小さな女の子のままでいたかった。
無情な時の流れを、すみれはこのときほど恨めしく思ったことはなかった。
左端を歩くすみれと航の横を、若い男女グループが大きな声で騒ぎながら、酔っているのか千鳥足でフラフラと歩いていた。
その中のタンクトップを着た金髪の女性が、すみれと航をちらりと見て、大きな声で他の仲間に告げた。
その言葉は否が応でもすみれと航の耳に入ってきた。
「うわー。大人しそうな顔してパパ活かよ。」
その言葉を受けて他の仲間もすみれと航の方を向き、冷やかすような口笛を吹いた。
「清楚系ビッチってヤツ?」
「オジサン、もうヤリましたかあ?」
一団は大きな声で笑い、叫びながら遠ざかっていった。
その心無い言葉の数々に、すみれの身体は氷水を浴びせられたように冷え、肩が小刻みに震えた。
大切な航とのひとときに泥水をかけられたような気持ちになり、怒りで涙が目尻に滲んだ。
そのときすみれの右手を握りしめていた航の手がスッと離れた。
すみれと航の間に薄く透明な、けれど明らかに強固な膜が張られてしまった瞬間だった。
航君・・・?
すみれは怖くて航の顔が見れなかった。
もし航の顔がすみれの知らない他人行儀な表情を作っていたら・・・。
けれど恐る恐る横を向いて見上げたすみれに、航はいつもと変わらない優しい笑みを見せた。
「そろそろ帰るか。」
「うん。」
その笑顔に安心したすみれは、再び航と手を繋ごうとした。
けれど航はゆっくりとすみれの右手を押し戻した。
「・・・航君?」
「俺は何を言われても構わないが、すみれが侮辱されるのは我慢できない。すみれを傷つける奴は絶対に許さない。」
聞いたことのないような低くくぐもった声で、航はそうつぶやいた。
「私なら大丈夫だよ?」
「いや・・・手を繋ぐのはやめておこうか。すみれはもう小さな子供じゃない。俺の配慮が足りなかったんだ。ごめんな。すみれに嫌な思いをさせて。」
「謝らないで。私はまだ子供だよ?航君と手を繋ぎたいよ。」
「・・・すみれが好奇の目で見られるのは、俺が耐えられないんだよ。」
航君、私から離れていかないで・・・。
私が童顔じゃなかったら、もう少し背が高かったら、もっと大人っぽい女の子だったら、航君にこんな思いをさせることもなかったのに・・・。
すみれは自分の幼い容姿が心底恨めしかった。
この時から航はすみれに一切触らなくなった。
手を握ることはもちろん、背中や頭をぽんぽんと軽く叩くこともしなくなった。
それはすみれにとって、身を切られるくらいに悲しく淋しいことだった。
これが大人になるということなら、大人になんてなりたくなかった。
いつまでも小さな女の子のままでいたかった。
無情な時の流れを、すみれはこのときほど恨めしく思ったことはなかった。