バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
「ねえ。航が36歳にもなって結婚しない理由ってなんだかわかる?」
「・・・・・・。」
すみれが黙っていると、麗華は静かに、けれどすみれを暗に責めるような口調で言った。
「航はルックスもいいし、性格も少し頑固なところがあるけれど、優しくていい奴よ。恋人のひとりもいないなんておかしいと思わない?」
「それは・・・航君は自分ではモテないっていつもぼやいてますけど・・・。」
「そんなわけないでしょ?本当にそんな言葉を信じてるの?」
麗華はそう言って薄く笑うと、黒いシャネルのバッグから取り出したメンソールに火を付け、それを口に咥え、ゆっくりと煙を吐き出した。
「私、航に尋ねたの。今付き合っている女性はいないの?結婚を考えたりはしないの?ってね。そしたら航はこう答えたわ。俺には幸せを見届けなければならない子がいるからって。その子が幸せになるまで俺は誰とも付き合わないし結婚もしないって。それってすみれちゃん、あなたのことでしょ?」
「・・・・・・。」
「航はそうやって自分をずっと恋愛から遠ざけてきたんでしょうね。あなたの幸せだけを願って。それについてどう思う?」
そう詰問されてすみれは何も言えなくなった。
「すみれちゃん。あなた航のことが好きよね?」
「・・・当たり前です。」
「LIKE?いいえ、LOVEよね。そしてそれを航も知っている。」
「どうしてそんなことがあなたにわかるんですか?」
「わかるわよ。この数時間だけでもあなたと航を見ていればね。あなたそれくらい、態度から航への想いが滲み出てるのよ。」
「・・・・・・。」
自分の想いを隠せていると思っていたすみれは、麗華の指摘に青くなった。
「だから航はあなたとの関係に悩んでるんじゃないかと思う。あなたを女としては愛せない、けれど突き放すことも出来ない。はっきりいうわ。あなたは航を苦しめているの。」
私が航君を苦しめている・・・?
「あなたが女としての幸せを手に入れるまで、航は絶対にあなたを見放さない。あなたはそれをいいことにいつまでも航のそばを離れないつもりよね。でもそれって航にとって幸せと言えるのかしら?」
「私では航君を幸せに出来ないっていうんですか?」
すみれは震える声でそう尋ねた。
「はじめからそう言ってる。もう一回言うわ。あなたの存在が航を苦しめている。それをわかって欲しいの。」
「・・・・・・。」
「私、来月京都から東京へ引っ越して来るの。大学時代から航を好きだったけど友達としての関係を崩すのが怖かったから、その時は告白しなかった。けれど再び航の近くにいられるのなら、もう我慢しない。」
「我慢しない・・・」
「久しぶりに航と会って、やっぱり私は航のことがまだ好きだって気付いたわ。今度こそ航に告白するつもり。私のほうがあなたより航のことを理解してあげられる自信がある。私なら航を本当の意味で幸せにできる。航の子を産んであげることも出来る。だからすみれちゃん、そろそろ航を解放してあげて欲しいの。私達の邪魔をしないで欲しい。あなたはもう子供じゃない。一人前の女性なんだから自立して欲しい。精神的にも肉体的にも。」
「航君の・・・子供?」
考えてもみなかったその言葉に、すみれは強く打ちのめされた。
「航だって心の奥底では、自分の血をわけた子供が欲しいって思っているわ、きっと。」
それ以上何も聞きたくなかった。
すみれは席を立ち、自分の部屋へ逃げ込んだ。
ベッドの上ですみれは声を殺して泣いた。
航君のそばにいることが私の幸せだった。
でも幸せなのは私だけだった。
その幸せの陰で、航君が苦しんでいるなんて知らなかった・・・。
すみれはこのとき己のことしか考えていない愚かな自分を嫌というほど思い知った。
「・・・・・・。」
すみれが黙っていると、麗華は静かに、けれどすみれを暗に責めるような口調で言った。
「航はルックスもいいし、性格も少し頑固なところがあるけれど、優しくていい奴よ。恋人のひとりもいないなんておかしいと思わない?」
「それは・・・航君は自分ではモテないっていつもぼやいてますけど・・・。」
「そんなわけないでしょ?本当にそんな言葉を信じてるの?」
麗華はそう言って薄く笑うと、黒いシャネルのバッグから取り出したメンソールに火を付け、それを口に咥え、ゆっくりと煙を吐き出した。
「私、航に尋ねたの。今付き合っている女性はいないの?結婚を考えたりはしないの?ってね。そしたら航はこう答えたわ。俺には幸せを見届けなければならない子がいるからって。その子が幸せになるまで俺は誰とも付き合わないし結婚もしないって。それってすみれちゃん、あなたのことでしょ?」
「・・・・・・。」
「航はそうやって自分をずっと恋愛から遠ざけてきたんでしょうね。あなたの幸せだけを願って。それについてどう思う?」
そう詰問されてすみれは何も言えなくなった。
「すみれちゃん。あなた航のことが好きよね?」
「・・・当たり前です。」
「LIKE?いいえ、LOVEよね。そしてそれを航も知っている。」
「どうしてそんなことがあなたにわかるんですか?」
「わかるわよ。この数時間だけでもあなたと航を見ていればね。あなたそれくらい、態度から航への想いが滲み出てるのよ。」
「・・・・・・。」
自分の想いを隠せていると思っていたすみれは、麗華の指摘に青くなった。
「だから航はあなたとの関係に悩んでるんじゃないかと思う。あなたを女としては愛せない、けれど突き放すことも出来ない。はっきりいうわ。あなたは航を苦しめているの。」
私が航君を苦しめている・・・?
「あなたが女としての幸せを手に入れるまで、航は絶対にあなたを見放さない。あなたはそれをいいことにいつまでも航のそばを離れないつもりよね。でもそれって航にとって幸せと言えるのかしら?」
「私では航君を幸せに出来ないっていうんですか?」
すみれは震える声でそう尋ねた。
「はじめからそう言ってる。もう一回言うわ。あなたの存在が航を苦しめている。それをわかって欲しいの。」
「・・・・・・。」
「私、来月京都から東京へ引っ越して来るの。大学時代から航を好きだったけど友達としての関係を崩すのが怖かったから、その時は告白しなかった。けれど再び航の近くにいられるのなら、もう我慢しない。」
「我慢しない・・・」
「久しぶりに航と会って、やっぱり私は航のことがまだ好きだって気付いたわ。今度こそ航に告白するつもり。私のほうがあなたより航のことを理解してあげられる自信がある。私なら航を本当の意味で幸せにできる。航の子を産んであげることも出来る。だからすみれちゃん、そろそろ航を解放してあげて欲しいの。私達の邪魔をしないで欲しい。あなたはもう子供じゃない。一人前の女性なんだから自立して欲しい。精神的にも肉体的にも。」
「航君の・・・子供?」
考えてもみなかったその言葉に、すみれは強く打ちのめされた。
「航だって心の奥底では、自分の血をわけた子供が欲しいって思っているわ、きっと。」
それ以上何も聞きたくなかった。
すみれは席を立ち、自分の部屋へ逃げ込んだ。
ベッドの上ですみれは声を殺して泣いた。
航君のそばにいることが私の幸せだった。
でも幸せなのは私だけだった。
その幸せの陰で、航君が苦しんでいるなんて知らなかった・・・。
すみれはこのとき己のことしか考えていない愚かな自分を嫌というほど思い知った。