バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
そしてとうとう住み慣れた家を出る日が来た。

玄関先ですみれは航と向き合った。

「航君、今までありがとう。本当に本当に感謝してます。」

「よせよ。永遠の別れじゃないだろ?」

「・・・そうだけど。」

「たまには顔を見せに帰って来い。そしたら俺が手料理を振舞ってやるから。」

「うん。わかった。」

「じゃあ、もう早く行け。」

そう言って背中を向けた航を、すみれは大きな声で呼び止めた。

「待って!航君。」

「どうした。忘れ物か?」

そう言って振り向いた航の目を、すみれは透き通った瞳でみつめた。

「最後に航君にひとつだけお願いがあるの。聞いてくれる?」

すみれの思い詰めた様子に、航も真剣な顔で向き合った。

「なんだ。言ってみろ。」

すみれは少し間を置き、小さく息を吸って航に告げた。

「キス、してください。」

「・・・・・・。」

「私、ファーストキスは航君とするって決めてたの。もうずっと前から。」

「お前には・・・大原君がいるだろ・・・」

「航君とキスしたら・・・もう二度と航君のこと困らせないから。ちゃんと大人になるから。だから・・・だから航君の唇を一回だけ私にください。」

航は全てを悟ったような表情で、すみれをみつめた。

航の両手がすみれの肩に置かれた。

すみれの顔に航の顔がゆっくりと近づき、その唇がすみれの唇に触れた。

すみれも航の頬に両手を添えた。

航の唇がすみれの唇を強く塞ぎ、角度を変えて何度もお互いの唇を貪りあった。

ふたりの唇は甘く溶けあい、繰り返し繰り返しキスを交わした。

そして、惜しむように航の唇がすみれから離れた。

「すみれ・・・。」

呻くような航の声を聞きながら、すみれは瞳に涙を潤ませ、小さく微笑んだ。

「航君。さよなら。」

それだけを言い残し、すみれは玄関の扉を開け、航の元から立ち去った。

すみれが航に教えた引っ越し先の住所は全て嘘だった。

スマホのライン情報も電話番号も、全て航に繋がらないように変更した。

そしてすみれは航の前から完全に姿を消した。


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