バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
新たな出逢い
ーー3年後の初夏ーー
その家の前まで来ると、すみれは大きく息を吸った。
扉の横に備えられた呼び鈴の丸いボタンを押すと、かすかにピンポンという音がすみれの耳にも聞こえてきた。
しばらく待っているとゆっくりと扉が開き、寝癖のついた髪に上下のスエットを着た男が顔を出した。
顎には無精ひげをたくわえている。
男は訝し気な表情ですみれを見ると、面倒くさそうな口調で言った。
「どなたですか。」
すみれは慌てて自分がここへ訪問した理由を男に告げた。
「あの・・・私、あなたのお母様に頼まれて来た家政婦です。」
「ああ・・・そう言えばお袋が家政婦がどうとかって電話で言ってたな・・・。まったく大きなお世話だ。君、せっかく来てもらって悪いけど帰ってくれないか?知らない人間を家に上げたくない。」
「そんなこと言われても困ります。私、もうお母様にお金を頂いてしまっているので。」
「じゃあ、その金は返せばいいだろ?」
「もう使っちゃいました。だから返せません。とりあえず家に上がらせてください。」
すみれはその男・・・迫田の身体を押しのけ、玄関で靴を脱ぐとすかさず家の中へ上がり込んだ。
「おい。不法侵入だぞ。」
「だったら警察でもなんでも呼んでもらっていいですよ?」
迫田の大きなため息を背中で受け流し、すみれは家の中を一瞥した。
リビングには脱ぎっぱなしの服や、本や雑誌、飲みかけのペットボトルなどが転がり、お世辞にも綺麗に片付けられている部屋とはいえなかった。
キッチンを眺めると、自炊をしていないのだろう、キッチン用品が動かされた形跡はない。
すみれは大きな布のバッグから白いエプロンを取り出し、素早く身に着けた。
「とりあえず部屋を片付けさせてください。」
「・・・勝手にしろ。」
迫田はそう言い捨てて、自室へ引っ込んでしまった。