バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
その日からすみれは迫田と一緒に夕食を取るようになった。

時にはハンバーグを、時にはグラタンを。

自分の作った料理を、目の前で美味しそうに食べる迫田を見ると、すみれの胸は温かくなった。

すみれと迫田は夕食を食べながら、色んな話をした。

迫田は職場で起こったハプニングを、すみれは老人介護施設で出会った人達の話や介護の苦労話を、ときに笑いときに真面目に語り合った。

「そういえばすみれさんが飼っているうさぎのららだっけ?どんなうさぎ?」

迫田はいつしかすみれのことを名前で呼ぶようになっていた。

「あ、スマホに写真があります。」

すみれは自分のスマホをエプロンのポケットから取り出してららの画像を映し、それを迫田に見せた。

「可愛いな。真っ白な毛並みがつやつやしていて美しい。」

「実はこの子、2代目なんです。最初の子もうさぎの平均寿命より随分長く生きてくれたんですけど、最後は私の膝の上で・・・。嬉しいときも悲しいときも、いつもそばにいてくれた子だったので、お別れのときはすごく辛かったです。」

「そうか・・・。すみれさんにとってららは家族だったんだね。」

「はい。・・・でもきっとららは天国で楽しく暮らしていると思います。」

「うん。君に大切に育てられて、ららも幸せだったと思うよ。」

迫田がすみれを励ますようにそう言った。

「ありがとうございます。」

しんみりした空気の中、すみれは常々気になっていたことを迫田に尋ねた。

「迫田さん・・・最近、体調はどうですか?頭痛の具合は・・・?」

「ああ。前よりはだいぶ良くなってきたけど、たまに割れるような頭痛に襲われる。」

「・・・そうですか。」

「でもそんなに心配しなくても大丈夫だよ?薬も飲んでるし。脳波の方は異常ないらしいんだ。医者が言うにはどうやら心因性じゃないかって。精神科を紹介されたけど・・・あまり気が進まなくてね。」

「・・・・・・。」

「俺はね。時々、自分自身のことがよくわからなくなるんだ。・・・自分が何を求めどこへ進んでいるのかわからなくなる。ただ職場と家の往復だけでこのまま人生が終わっていくのかって。この歳になってこんな青臭いこと言うのは恥ずかしいんだけどさ。」

「わかります。私も夢の中で迷子になります。現実でも。」

「でもすみれさんが家に来てくれるようになって、俺も少し変わったように思う。毎日をちゃんと生きたいと思うようになった。食生活も、身なりにも、気を遣うようになった。すみれさんのお陰だよ。」

そう照れ臭そうに迫田は笑った。

迫田の身なりは、初めて会ったときに生やされていた顎の無精髭がなくなり、髪も無造作だけれどキチンと整えられるようになっていた。

「そう言ってもらえてすごく嬉しいです。」

すみれは笑顔でそう答えた。
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