バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
「航君が入院している病院はどこですか?会いたいです。航君に会いたいです!」
しかし妙子は神妙な面持ちで、黙り込んだ。
その態度にすみれはじれったくなり思わず叫んだ。
「病院を教えてください!」
「そのことなんだけど、あらかじめすみれちゃんに話しておかなければならないことがあるの。」
「・・・なんですか?教えてください。」
はやるすみれの言葉を受けて、妙子が静かに答えた。
「航は、記憶を失っているの。」
「・・・・・・え?」
考えてもみなかった言葉に、すみれの思考が止まった。
「記憶を失ってる・・・?」
「脳のレントゲンを撮って調べてもらったんだけど、脳に異常はなかったの。お医者様が言うには心因性の記憶障害じゃないかって。なにか忘れてしまいたい程辛い出来事があって、それが事故の衝撃で表面化したんじゃないか・・・記憶を失くすことで自身の心を守っているんじゃないかって。」
「忘れてしまいたい程、辛い出来事・・・。」
「私達が養父母だってことは、戸籍や身分証明書を見せてなんとか納得させたの。けれど航は、すみれちゃんのことも、桔梗さんのことも、自分の過去も、全部忘れてしまったの。」
「そんなの嘘です!私のことだけは・・・きっと覚えてくれているはずです!」
「私もそう思って聞いてみたの。野口すみれちゃんのことは覚えてるでしょ?って。でもね・・・そんな子知らないって・・・」
嘘だ。
そんなことあり得っこない。
私のことまで忘れてしまうなんて・・・そんなこと・・・。
すみれはなんとか冷静になろうと大きく深呼吸をした。
「とにかく航君に会ってみます。」
すみれがそう言うと、妙子は航が入院している病院の名前と病室番号の書かれたメモをすみれに手渡した。
「時間があるときでいいから、航に会ってやってちょうだい。もしかしたらすみれちゃんを思い出すかもしれない。」
「・・・はい。」
「私は航を救えるのはすみれちゃんしかいないと思って、それですみれちゃんを必死に探して、今日ここへ来たの。すみれちゃん。航をお願い。お願いします。」
妙子はそう言って何度も何度もすみれに頭を下げた。
「あの・・・航君には恋人はいないんでしょうか?もしいるなら・・・」
すみれは一番気にかかっていたことを、妙子に尋ねた。
「いないわよ。だってそれらしい女性がお見舞いに来たことなんて、一度もなかったもの。京都の家に女性を連れてくることもなかったし。あ、そういえば」
「え?」
「君塚麗華さんていう女性がお見舞いに来たわね。」
「麗華さん?」
「でも安心して。君塚さんは犬飼さんという男性と一緒に来たの。航とはただの友達だって言ってたわ。でも航、二人のこともすっかり忘れていた。」
「・・・そうですか。」
麗華さんと航君は付き合わなかったんだ・・・。
「もうすみれちゃんしか頼れる人はいないの。」
「・・・わかりました。」
こんなことになるなら、航君の元から離れるんじゃなかった。
激しい後悔の波が押し寄せ、すみれの胸はつぶれそうだった。
でも・・・もう航君から離れない。
記憶を失くした航君のために、自分が何をしてあげられるのかはわからない。
でもきっと私にしか出来ないことがあるはず。
それに・・・航君は、絶対に私のことだけは顔を見れば思い出してくれるに違いない。
そのときのすみれはそう考えていた。
しかし妙子は神妙な面持ちで、黙り込んだ。
その態度にすみれはじれったくなり思わず叫んだ。
「病院を教えてください!」
「そのことなんだけど、あらかじめすみれちゃんに話しておかなければならないことがあるの。」
「・・・なんですか?教えてください。」
はやるすみれの言葉を受けて、妙子が静かに答えた。
「航は、記憶を失っているの。」
「・・・・・・え?」
考えてもみなかった言葉に、すみれの思考が止まった。
「記憶を失ってる・・・?」
「脳のレントゲンを撮って調べてもらったんだけど、脳に異常はなかったの。お医者様が言うには心因性の記憶障害じゃないかって。なにか忘れてしまいたい程辛い出来事があって、それが事故の衝撃で表面化したんじゃないか・・・記憶を失くすことで自身の心を守っているんじゃないかって。」
「忘れてしまいたい程、辛い出来事・・・。」
「私達が養父母だってことは、戸籍や身分証明書を見せてなんとか納得させたの。けれど航は、すみれちゃんのことも、桔梗さんのことも、自分の過去も、全部忘れてしまったの。」
「そんなの嘘です!私のことだけは・・・きっと覚えてくれているはずです!」
「私もそう思って聞いてみたの。野口すみれちゃんのことは覚えてるでしょ?って。でもね・・・そんな子知らないって・・・」
嘘だ。
そんなことあり得っこない。
私のことまで忘れてしまうなんて・・・そんなこと・・・。
すみれはなんとか冷静になろうと大きく深呼吸をした。
「とにかく航君に会ってみます。」
すみれがそう言うと、妙子は航が入院している病院の名前と病室番号の書かれたメモをすみれに手渡した。
「時間があるときでいいから、航に会ってやってちょうだい。もしかしたらすみれちゃんを思い出すかもしれない。」
「・・・はい。」
「私は航を救えるのはすみれちゃんしかいないと思って、それですみれちゃんを必死に探して、今日ここへ来たの。すみれちゃん。航をお願い。お願いします。」
妙子はそう言って何度も何度もすみれに頭を下げた。
「あの・・・航君には恋人はいないんでしょうか?もしいるなら・・・」
すみれは一番気にかかっていたことを、妙子に尋ねた。
「いないわよ。だってそれらしい女性がお見舞いに来たことなんて、一度もなかったもの。京都の家に女性を連れてくることもなかったし。あ、そういえば」
「え?」
「君塚麗華さんていう女性がお見舞いに来たわね。」
「麗華さん?」
「でも安心して。君塚さんは犬飼さんという男性と一緒に来たの。航とはただの友達だって言ってたわ。でも航、二人のこともすっかり忘れていた。」
「・・・そうですか。」
麗華さんと航君は付き合わなかったんだ・・・。
「もうすみれちゃんしか頼れる人はいないの。」
「・・・わかりました。」
こんなことになるなら、航君の元から離れるんじゃなかった。
激しい後悔の波が押し寄せ、すみれの胸はつぶれそうだった。
でも・・・もう航君から離れない。
記憶を失くした航君のために、自分が何をしてあげられるのかはわからない。
でもきっと私にしか出来ないことがあるはず。
それに・・・航君は、絶対に私のことだけは顔を見れば思い出してくれるに違いない。
そのときのすみれはそう考えていた。