バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
航は運動会も学芸会も、すみれの学校の行事は欠かさず見に来てくれた。

桔梗が足腰が悪くて来られないこともあるけれど、すみれが一人で淋しくないように気を配ってくれているのがわかっていたから、すみれはどの学校行事も全力で頑張った。

運動会の徒競走では一等を取ったし、授業参観では先生からの質問に、誰よりも早く手を挙げた。

その度に頭をくしゃくしゃと撫でられ「頑張ったな。」と航に褒められるのが、すみれには一番のご褒美だった。

学芸会では一回だけお姫様の役を演じた。

航はその後しばらくすみれのことを「すみれ姫」と呼んだ。



航は葬儀場ですみれに言ったいくつかの約束をちゃんと守ってくれた。

すみれが東京へ来て一週間後、航はすみれを連れてペットショップへ行き、グレーの毛並みに長い耳がピンと立った小さなうさぎを買った。

目が真ん丸で可愛らしいうさぎだった。

すみれはそのうさぎに「らら」という名前を付けて可愛がった。



航は自慢の愛車で、すみれを色んな所へ連れて行った。

遊園地で一緒にジェットコースターに乗ったり、動物園では長い列に並んでパンダを見た。

ある日航はすみれを東京タワーに連れて行った。

「すみれ。東京タワーって何メートルあるか知ってるか?」

「知ってるよ。333メートル。」

「じゃあスカイツリーは?」

「・・・わかんない。」

「答えは634メートル。」

「じゃあ東京タワーはスカイツリーに負けちゃったね。」

「高さではな。でもフォルムは東京タワーに一票を投じるね。」

ふたりは展望台へ昇った。

大きなガラス窓の向こうに広がる都会の街並みを眺めながら航が言った。

「どうだ。東京の景色もなかなか捨てたもんじゃないだろ?北海道には負けるかもしれないけどな。・・・すみれ。北海道が懐かしくない?淋しくないか?」

すみれは地平線の果てにある北海道の景色を思い浮かべた。

雄大な大地、豊かな自然、白い雪景色、そしてパパとママの笑顔。

でも、今は・・・

すみれは航の目をみつめながらハッキリと言った。

「淋しくない。航君と桔梗お祖母ちゃんがいるから。」

「うん。」

「私、東京が好きだよ。」

「うん。」

「航君がいれば、私はどこだっていい。私、航君とずっと一緒にいたい。」

「そうか。」

すみれの言葉に航は嬉しそうに微笑んだ。

「この広い世界の中で自分と関わる人間なんてほんのわずかだ。俺とすみれがこうやって一緒にいることは実は奇跡的なことなんだ。」

「うん。」

奇跡という言葉がすみれの中でキラキラと宝石のように輝いた。

「すみれはそのうち綺麗な大人の女性になる。すみれ、恋人が出来たら真っ先に俺に紹介するんだぞ。」

「恋人なんか作らない。私はずっと航君のそばにいる。」

そう言い張るすみれに航は「はいはい。わかったよ。」とその幼い頬を突き、笑って受け流した。

「よし。今度はスカイツリーへ行こうな。」

「うん!」

すみれは大きく頷いた。

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