御曹司は部下の彼女に仕事も愛も教えたい

 「そうだな。父親の跡を継いだとはいえ、大変だと思う。女性というだけでも色眼鏡で見られるだろうしな」

 「それなら、どうしてお母様の会社に入らなかったんですか?」

 「父がこの会社を起業する前は家で調理器具のことを母とよく相談したり、ふたりで使ってみたりしていたんだ。それを見ていたからかな。その会社へ入りたいと思ったんだ。俺は男だし、父を見ていたからな」

 「……なるほど。でもお母様は寂しかったんじゃないですか?」

 「そんなこともないわよ」

 後ろから鈴のような声がした。お母様だ。立ち上がって挨拶した。

 「ごめんなさいね、呼びつけておきながら遅れてしまって。座ってちょうだい」

 上着を脱いでベージュのパンツスーツを着たお母様はまだまだ若く見える。

 「仕事大丈夫だったのか?今日無理なら別な日でも構わないのに……」

 英嗣さんが心配そうにお母様を見ながら話した。
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