御曹司は部下の彼女に仕事も愛も教えたい
 
 「俺は母に冷たかった祖父母が嫌いでね。それを見ていた父は母へ俺を預けた。結局、父は祖父に逆らい自分で会社を興した。だが、春田の家のため、離婚後再婚せざるを得なかった。継母のあの人だ。椎名になっていて正解だった」

 たしかにそうかもしれない。あのおばさん、すぐ手を上げる。まずいタイプだよね。

 「俺はオーナー扱いで特別にここへ住むことを許されている。家賃も実はほとんど払っていない。光熱費だけだ。ここはファミリータイプだし、本当は一緒に住んでもいいくらいの広さだ。ただ、会社に住所が一緒だと知られると面倒だ。だから考えた。お前をこのマンションの他の部屋へ住まわせる」

 「……あの。だから、ここの家賃は絶対払えないです。見るからに高いのわかります。下の階だって結構するでしょ?」
 
 「このマンションの五階に空きがある。単身者用、二LDKタイプ。しかも角部屋。そこにしろ。俺の紹介で割引してもらうつもりだから安心しろ。払いきれなかったら俺が代わりに少し出してやる。ただし、このマンションに住むのが条件だ。他へ行くとなったら一銭も出さないぞ」

 「何脅してるんですか?そういう問題じゃないです。私が払える所と契約するんですよ。ねえ、私が探していたところの内覧に行きましょう。ここより少し遠くはなりますけど……」

 私がパソコンのマウスを握ってカーソルを移動しようとしたら、後ろに回った彼が上からカーソルを持つ私の手を握った。
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