御曹司は部下の彼女に仕事も愛も教えたい

 「……最低。あなたに会うため今まで努力してきたのに。そんな言葉で吹っ切れるとでも?私を甘く見ないで」

 俺は彼女を無視し、振り向かずそのまま階下に降りた。そして待たせてあるタクシーに乗り込んだ。

 今日は香那も前の男と食事している。奇しくも俺までそういうことになったが、香那のことが心配で早く帰りたかった。
 彼女と付き合うようになって俺の方が香那にどんどん引き寄せられている。

 厳しく鍛えてきた甲斐があって、この間の椎名不動産での彼女の発言は目を見張るものがあった。自信もついて、キャリアも出来てきた。最近可愛がりすぎて彼女が綺麗になってきたのも心配のタネだ。

 入社当初やりたかったことができるかもしれないとこの間も嬉しそうに話していた。
 
 彼女のことは応援しているが、どうして柿崎という元カレが担当者の中にいたんだ?
 部屋の契約に行ったときは担当をすでに外れていた。安心していたら、思いもかけぬことが起きて昨日は本当に驚いた。

 母さんは何も知らないから、単なる偶然か、あるいはあいつが立候補してきたかよくわからない。ただ、建築士だというから別枠だった可能性もある。
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