御曹司は部下の彼女に仕事も愛も教えたい

 じっとこちらを見ている。

 「あなたの家庭を壊すようなことはしたくないです。でもあなたのためだというならば考えます、父さん」

 「ありがとう。俺にお前を預けてくれた、彼女の気持ちもくんでやりたい。あいつを引き留められなかったのは俺に力がなかったからだ。どれだけ彼女を失ってつらかったか。決して嫌いでお互い別れたわけではない」

 それはわかっている。母は再婚していない。父は大きな会社の御曹司だったが、この会社を興した。社名にわざわざ母の名前を入れたくらいだ。彼女を愛していたのはわかる。

 母も社長令嬢だったが、自分の実家の会社の仕事を続け、社長となった。おそらく、お互いがお互いを思いやり別れを選択したのだ。

 仕事を捨てられなかった母は祖父母から冷たい扱いを受けていたと聞く。その祖父も昨年亡くなり、父は我慢をしなくなった。俺を本来の場所へ戻そうとしている。

 義理の弟はあまり経営者に向いていない。母親が溺愛して育てたせいか、自立心が足りないのだ。社長である父がそれに気付いていないはずもない。そして、義理の母の兄。彼が専務取締役。弟を使って会社を乗っ取ろうとしているのもわかってきていた。
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