臆病な私の愛し方
 私はその人に連れられて近くのレストランにやってきた。

 私のお小遣いでは決して来ることができないグレードの、もちろん今まで一度も入ったことなんてなかったお店。

「…あの…私、お金持ってないです…」

 私が恐る恐るそう断ると、その人は優しく笑う。

「私が半ば無理やり連れ出して話がしたいと言ったのだから、いいんだよ。奈津さんはケーキは好きかな?ここのものはけっこう評判が良いんだ」

 そう言うと「君」と店内を行くスタッフさんを呼び止め、メニューを見せながら注文をした。

 私の叔父を名乗るその人は、少し前まで死の間際を味わうほどの病気で入院していたらしい。
 そのためしばらくのあいだ仕事も他の人に任せ、戻った際に会社を立て直すのにも時間を費やしたらしい。

「春香と君のお父さんが亡くなったことは、しばらくして知ったよ。親戚たちの誰もが知らされていなかったんだが、うちの優秀な部下のおかげでね」

 その人は気の毒そうに私を見る。

「私は春香たちを恨んではいないよ。奈津さんのような愛らしい子が私の姪になったと知ったから。今までよく頑張ったね…」

「…。」

 私は何も言えずに黙ったまま。
 今さら私のもとにやってきたこの人への不信感も、お母さんが大手企業の重役の方と兄妹だったことへの驚きもある。

 でもそれより、この人は私に何の用で来たんだろう…?
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