滅亡の国の王女は隣国の王太子に拾われる

記憶


たまに、夢を見る。
辺りは炎の赤にそまり、轟々と迫り来る炎のその中で、私は母親と思わしき人に泣きながら「どうかお願い···あなだけでも、生きて···」と囁かれる。

まるで星を散りばめたような虹彩の金の瞳に、星を思わせるシルバーグレーの長い髪の女性が、目尻から涙を流す所で、私はいつも夢から覚める。

「···、またあの夢」

私とそっくりな容姿の女性。
幼い頃からいつも見る夢。
私は幼い頃に、いつも見る夢の内容を父に話した。

父は「···やはり、そうだったのか」と呟き悲しみに満ちた顔で、夢の内容には触れず、「お前がもう少し大きくなったら話そう」そう言われたまま、月日はながれ、その話は反故になってしまった。

何となく、これ以上は聞いてはならない気がしたのだ。

襲い来るのは漠然とした恐怖に似た者。
無意識に自身を守ろうと、頭の中で警鐘が鳴るのだ。

-コンコンコン。

目覚めた後の少しばかりぼーっとする中、ノックする音が部屋に響く。

メアドが朝の支度をしに部屋へと訪れて来たのだ。

「お嬢様、お目覚めですか?」

「えぇ、入っていいわ」

私は返事をした。

「おはようございます。本日のモーニングテーは、アールグレイをご用意いたしました」

「おはよう。ありがとう」

ティーセットを乗せたワゴンを押しながら、部屋に入って来るのは、この公爵邸に務めるメイドのリジーだ。

紅茶を受けとり一口飲めば、不思議とモヤモヤしていた気分が落ち着いていく。

カップに写った私の顔···。
私はリジーが開けてくれたカーテンから、そとの窓に視線を移した。

開けられた窓からは、柔らかな日差しと暖かい風が部屋を包み込む。


-ここは、月の国ムーンレイズ国。
私はここの、とある公爵令嬢である。


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