ふたりぼっち
そこまで言って花澤さんはハッとして顔を上げる。教室の空気はどこかおかしくなっていた。みんな、怪訝そうな顔で花澤さんを見ている。当然だろう。いきなり、僕たちが教科書でしか知らない歴史人物の容姿の話をされたって、わかるわけがない。

「あっ、ごめんね。変な話をして。ちょっとお手洗い行ってくるね」

花澤さんはそう言うと、逃げるように教室を出て行く。その横顔は何かに怯えているように見えた。

「花澤さんってあれかな?歴女ってやつ?」

「いや、あれは歴女じゃないでしょ。何百年前の人の顔を誰がどうやって知るっていうのよ」

あれだけ羨望の眼差しで花澤さんを見ていたクラスメートは、どこか引いているような顔で話していた。

(まあ、僕には関係ないか)

そう心の中で呟いた僕は、読みかけの怪奇小説の続きを読み始めた。



花澤さんが転校してから早三ヶ月ほどが過ぎた。花澤さんは初日の一件から、クラスメートとの間にほんの少しだけ壁ができてしまい、僕のように話す時は人と話すという日々を送っている。
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