ふたりぼっち
「ここはこの公式を当てはめるといいよ」

「なるほど!」

花澤さんはクラスメートに数学の問題を教えている。花澤さんは歴史だけではなく、ほとんどの科目が得意だ。そのためテスト前などになると多くの人が彼女の周りに集まる。

「ここ、応用だから難しいけどコツを覚えたら何とかなると思う」

「わかった。いっぱい問題を解くよ!」

花澤さんはみんなの前ではいつも微笑んでいる。綺麗で完璧な笑みだ。だからこそ、僕はいつも見てしまう。完璧な仮面の下には何があるのかって……。

「図書室で勉強するよ!」

花澤さんに教えてもらっていたクラスメートはそう言い、かばんを手にすると自分の友達に「勉強しよ!」と言い歩いていく。教室には僕と花澤さんしか残っていない。

(花澤さんは誘わないんだな……)

僕がそう思いながら見ていると、花澤さんの笑みが消えていく。憂いを帯びたその顔に、ただ目が離せない。きっと、僕しかこの表情を知らないのだろう。仮面がほんの一瞬だけ離れたその表情は。
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