ふたりぼっち
僕がジッと見ていると、花澤さんが視線に気付いたのか僕の方を見る。するとその口元はいつものような笑みが浮かべられ、「綾瀬くん、だったよね?」と厚めの唇が動いた。

「名前覚えてんの?一回も話したことないのに」

「クラスメートだし、何かしら関わる機会はあるでしょ?覚えるのは普通だと思う」

今まで、人と関わっても何も感じなかった。でも今、花澤さんが浮かべる笑顔を見て、心が荒れていく自分がいる。

「……何で、いつもそんな薄っぺらい笑顔浮かべて、人の輪に必死に入ろうとするわけ?意味わかんない」

僕がそう淡々と言うと、花澤さんは「独りは寂しいから」と口にする。その目はとても悲しげで、僕は最近読んだ怪奇小説を思い出し、口にした。

「八百比丘尼」

その言葉に花澤さんが目を見開く。この言葉を知っている人は少ない。よほどのオカルトマニアか、それともーーー。

「怪奇小説で見たことがあるんだ。何らかの方法でずっと歳を取らなくなった女性の話。その人は一般人を装うんだけど、歳を取らないことや歴史に変に詳しいことで怪しまれていくんだ」
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