御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?


ちゃんと伝えなきゃと思って、もう一度視線を上げた。


「っ、待って」


そう言ったと同時に氷上くんは私を抱き締めた。シトラスの香りが鼻をかすめる。


「だめっ。その返事はいい返事じゃないでしょ」


抱き締められている腕の強さから必死なのが伝わってくる。


っ・・・


胸の奥までぎゅうぎゅうと締め付けられて、涙が溢れそう。


「氷上くんと私じゃ・・・・・・つり、合わないよ・・・」

「誰がそんなこと言ったの」

「みんな・・・思うことだよ。私は何の取り柄もない庶民で・・・氷上くんは・・・御曹司だもん」

「・・・・・・。いいんちょーは、そんなの気にせずに最初から普通に接してくれてたじゃん」


さらにぎゅっと腕に力が込められる。


「それはっ・・・・・・友達、だと思ってたから・・・」

「じゃあ、今は?」


今は・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・好きな、人」


小さな声がさらに尻すぼみになって、届いたかはわからない。


でも言った瞬間、バッと身体を離された。


聞こえてしまったみたいだ。


恥ずかしくて顔を上げられない。


私の両肩を持って覗き込むように見てくる氷上くん。

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