御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?


「ほんと?いいんちょー、今の、ほんと?」


さっきまでとは別人のように少し声が弾んでいる。


でもその声が逆に私を戒めた。


「でもっ、だからダメなんだよ。氷上くんには、藤堂さんみたいなもっと相応しい人が現れると思うから」


氷上くんの顔は見れない。


「俺に相応しい人は俺が決める。他の誰かが決めることじゃないよ。だから、桃香との婚約も自分の意志で断った。初めて・・・自分から人を好きになったから」


最後の言葉に思わず顔を上げると、真っ直ぐな真剣な瞳に捕まった。


「ねぇ、いいんちょー。俺だけを見てよ。他のことは何も考えないで、ひとりの男として、俺のこと、どう思ってる?」



もう無理だと思った。


苦しくなるくらい好きなってしまった人が、こんなに真っ直ぐ想いを伝えてくれているのに、もうこれ以上、自分の気持ちを押し殺すことなんてできない・・・


「私も・・・・・・氷上くんが、すきっ」


堪えていた想いと共に涙が溢れた。


ふわっとまたシトラスの香りに包まれる。


背中に回された腕があたたかい。


もういい。他のことはどうでもいい。


今はこの腕の中にいたい。


「あぁー・・・やばいな。俺、今度は幸せすぎてどうにかなりそう」

「氷上くん・・・・・・私も、だよ」


さらにぎゅっと抱き締められる。

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