御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?
「はぁー・・・・・・」
背もたれに背中をあずけ、深いため息がもれる。
「もう少し遠回りした方がよろしかったですね」
バックミラー越しの榎田が前を見たまま口角を上げている。
「あと少し、でしたね」
「っ・・・・・・趣味悪いね、榎田。運転に集中してなよ」
「申し訳ございません」
そう言いながらも榎田の顔は緩んでいて楽しそうだ。
なんだよ。
恥ずかしいんだけど。
俺の脳内全部見透かされてる気がして笑えない。
でも榎田には全部お見通しなんだろう。
今、俺の頭の中が苺花だらけだってことも。
「素敵なお方ですね」
「あんまり見ないでよ。俺のだから」
「・・・フフッ、親子ですねぇ」
「なに?」
「いえ、なんでもございません。肝に銘じておきます」
楽しんでるな、このおじさん。
まあ、いいけど。
そう思いながら窓を見ると、少し不貞腐れたような自分の顔が写っていた。
でもすぐに苺花の顔が頭に浮かび、自然と口角が上がる。
その光景をまたバックミラー越しに見られていて微笑まれていることに俺は気づかなかった。