御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?
「緊張されていますか?リラックスしてくださいね」
榎田さんが少し振り返って、微笑んでくれた。心地の良い低音の声で気持ちも解れる。
「はい、ありがとうございます」
「琳凰様と仲良くして頂いているようで、こちらこそありがとうございます。桃香様以外の女性をお通しするのは初めてなのですよ」
「そ、そおなんですね・・・」
急に藤堂さんの名前が出てきて、胸がざわつく。
私、来ちゃってよかったのかな・・・
やっぱりダメだったんじゃない・・・?
一気に罪悪感に襲われる。
「あ、あのっ!このノートを届けに来ただけなので、渡して頂けますか?」
振り返った榎田さんにノートを差し出した。
「わざわざありがとうございます。琳凰様のお部屋はもうそこですので、直接渡して差し上げてください」
何の悪気もない笑顔を向けられて、返す言葉をなくしてしまった。
本当にすぐ部屋の前に着いてしまい、なんで玄関で渡さなかったのかと後悔しても遅かった。
コンコンコン。