御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?


そう言ってスマホを出すと、片腕は私の腰に回したまま、もう一方の手で画面を操作してワルツの曲を小さく流し始めた。


私の腰にあった手は肩甲骨へと上がり、いつのまにかワルツの構えに。


半ば強引に始まったダンスに、私はもう返す言葉をなくして、気づけば足を動かしていた。


♪〜


優雅に小さく流れるワルツ。


薔薇に囲まれたこの空間が、二人だけの世界を創り上げる。



ちょっとだけ・・・


ちょっとだけならいいかと思ってしまった。


この先、氷上くんとこんなに近づけることなんてないだろう。だから、踊りたいと思ってしまった。



・・・・・・・・・ダメなのに。


一緒に踊ってしまえばもう・・・・・・自分がどうなるかなんて、わかってるのに。


もう誤魔化せなくなってしまう。


おずおずと氷上くんを見上げると、熱の籠った瞳と目が合った。


逸らせずに見つめてしまう。


目の前の熱い瞳に映っているのは確かに自分で。


ちょっとでも、ほんのちょっとでも期待してしまうんだ。



氷上くんも、私と同じ気持ちなんじゃないかって。

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