御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?
『お前には藤堂さんがいるだろ?』
加瀬くんが氷上くんへ向けて言った言葉が私の胸に刺さり、ズキズキと痛む。
誰もが知っていること。
揺るぎない事実。
さっきまでの熱が一気に冷めていく。
・・・・・・現実を見なくちゃ。
氷上くんは簡単に好きになっていい相手じゃない。私たち庶民とは元々住む世界が違う人。
氷上くんちに行った時、あれほど思い知ったのに。
「加瀬には関係ないよね。俺といいんちょーが話してるんだけど」
「関係あるよ。これ以上、高沢を弄(もてあそ)んで傷つけるなら、俺はそれを見過ごせない。氷上、お前は自分が何してるかわかってないだろ」
「っ・・・・・・」
いつのまにか小さく流れていたワルツも止まっていて、ピリッと空気が張り詰めている。
氷上くんが下ろしている拳にぎゅっと力を入れたのがわかった。
「あ、あのっ、加瀬くん、私なら大丈夫だから。・・・・・・氷上くん、ごめん。私、もう行くね」
何も言わない氷上くんを置いて、私は加瀬くんと薔薇園を出た。