御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?


「琳凰か。珍しいな」


窓際に立って庭を眺めていた和服のその人は、氷上十吉(ときち)。父方の祖父で、現氷上財閥のトップだ。


「お祖父様、話があります」

「・・・ほお。では茶を淹れよう」


外で見ると簡単には近寄れないオーラを纏(まと)う威厳のある祖父も、家ではどこか温かさを感じる。


でも、緊張は解けない。


これから俺は、この人に逆らおうとしているのだから。


 

ーーーー
ーー



バタンッとドアが閉まり、大きなため息をつく。


・・・・・・緊張した。だけど、じいさんの反応は予想外だった。


『お前の話はわかった。・・・良かろう。ただし、自分で藤堂と話をつけなさい』


意外にもあっさりだった。


自分で言っておきながらちょっと心配になる程。


でも、もう後戻りするつもりはない。


グッと拳を握り、俺は次の目的地へと足を踏み出した。







「ツキヨさん、まだまだ氷上は安泰のようじゃのぉ。血は争えんわ」


琳凰が去った後、十吉は机に立て掛けてある亡き妻の写真を見て嬉しそうに呟いた。


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