御曹司くんには婚約者がいるはずでは!?


舞踏会当日。


会場である高級ホテル、グランドオーキッドの一室で特S普通科の生徒はドレスアップしていた。


プロのヘアメイクが施され、みんなあっという間に綺麗に仕上がった。


「のんちゃん、ちょっとトイレ行ってくる」

「はいよー」


淡いピンク色のプリンセスラインのドレスを身に纏ったのんちゃんは、今日は眼鏡を外していてメイクもしているし、まるでお人形さん。


そのお人形さんが言いそうもない返事を聞いて私は部屋を出た。



化粧室の大きな鏡に映った私は、なんとも冴えない顔をしている。


二の腕にゆるっとかかるドロップショルダーが可愛らしい淡い水色のAラインのドレスに、髪は緩く巻いたダウンスタイルのプロのヘアメイク。


初めてこんなにドレスアップをしてもらって、普通女の子ならテンションも上がるはずなのに。


トイレは着替える前に済ませたから、今はただ一人になりたくて来た。


二つのことが頭の中を埋め尽くしている。


一つは、加瀬くんへの返事。


実は断ろうと決めていた。だけど数日前、のんちゃんに「加瀬のこと嫌いじゃないなら付き合ってみてもいいんじゃん?付き合って好きになっていくパターンもあるよ。あいつなら苺花のこと間違いなく幸せにしてくれるし」と言われ、正直、ちょっと揺れている。


確かに付き合って一緒にいれば、加瀬くんのことは好きになれそうな気がする。


普通の高校生らしい現実的な恋愛。それができると思う。


でも、もう一つのことがその決断の邪魔をする。

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