初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 エルシーとは違う体温に緊張するものの嫌悪感はなかった。こうすることで彼が苦しみから解放されるのであれば、このままこうしていてもいい。
 オネルヴァも、そろそろと彼の背に両腕を回す。きっと、このほうがいいはずだ。
「オネルヴァ……」
 熱い吐息と共に名を呼ばれ、ふるりと身体が震えた。
「すまない。もう少し、このままで……」
「はい……」
 顔を伏せた。きっとオネルヴァの頬には熱がこもっているだろう。このような顔を彼に曝け出すのが恥ずかしいと思えた。
 しばらくの間そうしていたが、抱きしめられた腕の力が弱くなっていく。
「すまなかった。助かった……」
 それでもオネルヴァはまだ顔をあげることができなかった。ただ静かに「はい」と返事をする。
 イグナーツの熱からは解放された。だが、彼も気まずいのか、オネルヴァのほうを見ようとはしない。
 オネルヴァは意を決し、顔をあげる。
「旦那様……」
 じっと彼を見つめると、耳の下まで赤くなっている。
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