初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「かわいらしいですね。よく見ると、みな、少しずつお顔が違うのですね」
 オネルヴァの言葉に、イグナーツの口の端がひくっと動いた。何か言いたそうに、ひくひくとしている。
「旦那様。どうかされましたか? あの、ご迷惑でなければ、わたくしにも一つ、いただけないでしょうか」
 するとまた、イグナーツの唇がふるふると震える。
「やはり。こちらはエルシーの分でしたか……? あの、無理にとはいいませんので。忘れてください」
 これだけあるならば、一つくらいもらってもいいだろうと思っていた。
「いや……。好きなだけ持っていってかまわない」
「ですが、こちらはエルシーの分なのですよね。エルシーが誕生日にもらっていると、そう教えてくださいましたから」
「あ、ああ。そうだな……。あげる相手がエルシーくらいしかいないからな。だから、好きなだけ持っていけばいい」
「好きなだけ……。ですが、たくさんいただいたらエルシーの分がなくなってしまいますから」
 そこでオネルヴァはすっと立ち上がり、すたすたと歩き出す。
「この子をいただいてもよろしいですか?」
 窓際に置かれているうさぎが気になった。少しだけ耳がくたっと垂れている。その垂れ具合が、オネルヴァの心にずさりと刺さった。両手で抱き上げて、抱きしめる。
「それは、俺が初めて作ったものだな」
 驚いてイグナーツの顔をまっすぐに見つめた。だが彼は、視線を逸らして鉛色のカーペットを見つめている。
< 104 / 246 >

この作品をシェア

pagetop