初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「俺の場合。魔力が強いため、どうしても魔力が体内に留まってしまうんだ。だから定期的に魔力を使う必要がある。例えば、体内に十の魔力を蓄えられるとしたら、他の者はだいたい五前後の魔力を蓄えている。それが十を超えることはない。俺の場合、それがすぐに十を超え溢れてしまう。溢れた分を使う必要がある」
 なんとなくわかったような気がする。イグナーツから溢れた魔力が、彼の身体を蝕むのだろう。
「魔力がありすぎるというのも、大変なのですね。わたくしにはわからない世界ですが」
 そこまで口にして、先ほどのイグナーツを思い出した。
「もしかして。先ほど、具合が悪そうに見えたのは、その魔力のせいですか?」
「そうだ。ここで魔力解放を行おうとしたのだが、間に合わなかった」
 魔力の解放にもどうやらタイミングというものがあるようだ。
「ですが、今はこうして、普通にしていらっしゃいます」
「ああ。君が来てくれたから……」
 イグナーツも、それ以上は何かを言いにくそうに、唇を噛みしめていた。
「ですが、わたくしは何もしておりません」
 食事を運んできたオネルヴァは、どこからか苦しそうな声が聞こえたため、この部屋に入ってきた。そして彼に近寄っただけで、何も特別なことはしていない。
「君は『無力』だ……」
 ズキリとその言葉に胸が痛んだ。事実であるが、そうやって言われてしまうと惨めな感じがする。
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