初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「『無力』とは魔力が無いと言われているが、魔力を無効化するとも言われている」
「魔力の無効化ですか?」
「ああ……。俺は、何十年も前から、この魔力に悩まされ続けていた。それで、調べた。魔力は定期的に解放する必要があるが、その他の方法としては、魔力を無効化してもらえばいい」
「そのようなこと」
 聞いたことがない。そして、そういった文献を目にしたことがない。
「『無力』の者が魔力を無効化できるというのは、この国の者であっても、ほんの一部の人間しか知らない。俺と、国王と……。そんなもんだな。魔力無効化の能力があると知られれば、悪用される可能性もあるからな。そういった能力が存在することは知られていない」
 オネルヴァの心臓はトクトクといつもより速めに動いている。
 魔力の無効化だなんて知らない。そんな能力の存在も知らない。そしてオネルヴァ自身『無力』であったことで、虐げられてきた人生を送ってきた。誰もが魔力を持つこの世界で『無力』は恥じるべき人間であると思っている。
「わたくしは『無力』の人間ではありますが、魔力の無効化だなんて知りません」
「だが、君は確かに俺の魔力を無効化してくれた。だから今、俺はこうしてここにいられる」
「そう、なのですね?」
 イグナーツの話はよくわからない。それに彼の魔力を無効化して覚えもない。
「だから……。俺にとっては、君は必要なんだ……」
 イグナーツが苦しそうに絞り出すような声で言った。
 たとえそれがそんな目的であったとしても、必要と言われればオネルヴァも悪い気はしなかった。
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