初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「すまない。魔力が……」
たったそれだけの言葉であるが、彼に何が起きたのかをオネルヴァは瞬時に理解した。
腕に抱えていたぬいぐるみは、彼の頭の上のほうに置いた。くたっとしたまま、寄り掛かるかのようにして座っている。
イグナーツは、震える手をオネルヴァに向かって伸ばしてきた。
その手を両手で包み込んだオネルヴァは心配そうに彼の顔を覗き込む。
雨粒のような汗をびっちりと額に浮かべている。頬も上気しており、熱い息を苦しそうに吐いている。
この様子を見たら、誰だって心配するだろう。熱いからか寝衣の胸元ははだけており、今まで一度も見たことのない異性の逞しい身体にドキリとする。
「お水か何か、準備しましょうか?」
オネルヴァは彼の手を優しく握りしめたまま、尋ねた。
「いや……」
イグナーツは「それよりも」と言葉を続ける。
「もし、俺が死んだら、エルシーを頼んでもいいだろうか……」
ガツンと鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。なぜ、彼が今、そのようなことを口にするのか。
「旦那様、誰か人を呼びますか? お願いですから、そのような悲しいことをおっしゃらないでください」
「オネルヴァ……」
熱く湿った吐息と共に吐き出された自身の名に、オネルヴァは胸がえぐられるような痛みを感じた。
たったそれだけの言葉であるが、彼に何が起きたのかをオネルヴァは瞬時に理解した。
腕に抱えていたぬいぐるみは、彼の頭の上のほうに置いた。くたっとしたまま、寄り掛かるかのようにして座っている。
イグナーツは、震える手をオネルヴァに向かって伸ばしてきた。
その手を両手で包み込んだオネルヴァは心配そうに彼の顔を覗き込む。
雨粒のような汗をびっちりと額に浮かべている。頬も上気しており、熱い息を苦しそうに吐いている。
この様子を見たら、誰だって心配するだろう。熱いからか寝衣の胸元ははだけており、今まで一度も見たことのない異性の逞しい身体にドキリとする。
「お水か何か、準備しましょうか?」
オネルヴァは彼の手を優しく握りしめたまま、尋ねた。
「いや……」
イグナーツは「それよりも」と言葉を続ける。
「もし、俺が死んだら、エルシーを頼んでもいいだろうか……」
ガツンと鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。なぜ、彼が今、そのようなことを口にするのか。
「旦那様、誰か人を呼びますか? お願いですから、そのような悲しいことをおっしゃらないでください」
「オネルヴァ……」
熱く湿った吐息と共に吐き出された自身の名に、オネルヴァは胸がえぐられるような痛みを感じた。