初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「旦那様?」
 オネルヴァはすぐに彼に寄り添い、しっかりと手を握りしめる。
「すまない……」
 また、先ほどと同じように目はとろんとし始め、顔から生気が失われていくようにも見えた。
 だが、オネルヴァが手を握り始めると、彼の表情は次第に落ち着いていく。
「本当にすまない……。自分で思っていたよりも、症状は深刻だったようだ……」
 イグナーツ自ら、空いていた片方の手を、彼女の手の上に重ねた。
「こうして君に触れていないと、次から次へと魔力が溢れてくるらしい」
「つまり、旦那様はずっとわたくしに触れていなければならないのですか?」
「そういうことのようだ。今、落ち着いていられるのも、この手を通して君が俺の魔力を無効化しているからだろう」
「困りましたね」
 そう口にしたオネルヴァは首を傾げたものの、心から嫌がっているようには見えない。ただ、本当に困ったと思っているのだ。
「ずっとくっついたら、旦那様はお仕事にもいけませんしね。エルシーも一緒にくっつきたいと言うかもしれませんね」
 まるで「今日のご予定は?」と尋ねるような穏やかな口調である。困っているけれど、嫌ではない。
 イグナーツの喉元が、ゴクリと上下する。
「すまない、オネルヴァ……。俺を助けてもらってもいいだろうか」
 彼女はきょとんと眼をまんまるにしたかと思うと、目尻を和らげた。
「もちろんです、旦那様。先ほども言いましたが、わたくしたちは家族です。家族であれば、助け合うのも当たり前だと思うのです」
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