初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
彼女が眠りながら母親を呼ぶたびに、やるせない思いが心の中を支配していた。
イグナーツでは彼女の母親にはなれない。女性特有の身体や、繊細な感情など、軍人であるイグナーツにはわからないのだ。
「どちらにしろ、この結婚は君には断れない。だからこそ、娘のためだと思って、これを快く受け入れろ」
それが頑なに結婚しないと言い張っていたイグナーツへの王なりの優しさなのだろう。
「わかった。エルシーのために、この結婚を……、受け入れる……」
イグナーツは、腹の底からやっとその言葉を絞り出した。
「よし。そうとなれば、早速向こうに返事をしよう」
そう言っている王だが、初めからこの婚姻は決まっていたようなものだろう。褒賞として、人質として、キシュアスの王女をゼセールに嫁がせる。
なにしろ、『無力』の王女なのだ。
キシュアスでは不要な存在だったかもしれないが、イグナーツにとっては喉から手が出るほど必要な存在である。だからこそ、この結婚の打診をされた。それでも彼は、断りたかった。
キシュアス王国内の革命が成功し、王が代わって一か月が過ぎた。あの革命には、ゼセール王国からも援軍を送っており、その指揮を執ったのがイグナーツである。それは、キシュアスがゼセールの北側にある国であるため、援軍として派遣したのがイグナーツ率いる北軍であったからだ。
イグナーツでは彼女の母親にはなれない。女性特有の身体や、繊細な感情など、軍人であるイグナーツにはわからないのだ。
「どちらにしろ、この結婚は君には断れない。だからこそ、娘のためだと思って、これを快く受け入れろ」
それが頑なに結婚しないと言い張っていたイグナーツへの王なりの優しさなのだろう。
「わかった。エルシーのために、この結婚を……、受け入れる……」
イグナーツは、腹の底からやっとその言葉を絞り出した。
「よし。そうとなれば、早速向こうに返事をしよう」
そう言っている王だが、初めからこの婚姻は決まっていたようなものだろう。褒賞として、人質として、キシュアスの王女をゼセールに嫁がせる。
なにしろ、『無力』の王女なのだ。
キシュアスでは不要な存在だったかもしれないが、イグナーツにとっては喉から手が出るほど必要な存在である。だからこそ、この結婚の打診をされた。それでも彼は、断りたかった。
キシュアス王国内の革命が成功し、王が代わって一か月が過ぎた。あの革命には、ゼセール王国からも援軍を送っており、その指揮を執ったのがイグナーツである。それは、キシュアスがゼセールの北側にある国であるため、援軍として派遣したのがイグナーツ率いる北軍であったからだ。