初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 静かに頭に触れ、優しく撫でる。手触りのよい絹糸のような藍白の髪は、いつまでも触れていたいとさえ思う。
「んっ……」
 彼女の身体が震えたため、イグナーツは慌てて手を引いた。
 寝台を軋ませながら、ゆっくりと立ち上がる。
 このままここにいては危険だ。
 彼女の肩までしっかりと掛布がかかっているのを確認してから、音を立てぬように静かにその場を去った。
 後ろ髪を引かれる思いで部屋を出る。扉をなかなか閉められない。できることなら、彼女の側にいたい。
 だけど、いたくない。
 静かに扉を閉めた。

 次の日の朝――。
 なぜかオネルヴァの顔をまともに見ることができなかった。一緒に寝たいと口にしたのに、彼女から逃げ出したのだ。
「旦那様、どうかされましたか?」
 先ほどからチラチラと彼女を見ては視線を逸らし、また彼女を見ていた。その仕草に気づかれたのだろう。
「いや……」
 オネルヴァの隣にはエルシーもいる。迂闊なことは言えない。
「お父さま。お仕事のしすぎです。だから、疲れているのだと思います」
 エルシーが真顔で訴えてくる。
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