初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
妻を愛している夫と夫を気にする妻
 オネルヴァが嫁いでから、苺の月、雷の月、赤の月と三か月が過ぎた。そろそろ厳しい暑さも落ち着く収穫の月へと入る。収穫の月は、その名の通り農作物の実りの月である。
 厳しい暑さも和らぐため、過ごしやすい月だ。夜も長くなり、夜会なども頻繁に開催される。
 だが、この収穫の月はゼセール王が可愛がっている末の第一王女の誕生月でもあった。そのため、誕生日には昼間から夜半にかけて盛大なパーティーが開かれる。
 昼間の部の参加者は、関係者の子息が参加しやすいようにと開かれ、夜の部はもちろん大人の社交の場となる。
 イグナーツはこのパーティーについて、一か月以上も前から口にしていた。というのも、オネルヴァとエルシーも参加するためだ。二人のドレスをどうしたらいいものかと悩んだ結果、新しく仕立てることとなった。
 そうなれば、エルシーはオネルヴァとお揃いのドレスがいいと言い出し、オネルヴァも「そうですね」と微笑んでいる。
 そんな二人の様子を、イグナーツは複雑な気持ちで見つめていた。
 オネルヴァとは口づけを交わし、共に寝る間柄になった。ただそれだけであって、それ以上の関係はない。
 三か月もよく耐えていると、彼自身思っている。

「閣下……。具合が悪そうですが、訓練場に行かれますか?」
 ミラーンが遠慮がちに声をかけてきた。
 執務席に両肘をつき、組んだ手の上に額を押し付けていたその様子が、具合が悪そうに見えたのだろう。
「いや、大丈夫だ」
「ですよね。閣下の魔力、ここのところ、ずぅっと安定しているようですからね。って、顔がにやけてるじゃないですか」
 顔をあげて目の前のミラーンを見た途端、彼は一歩引いた。
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