初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 キシュアス国王を討ちたいからと、ラーデマケラス公爵がゼセール王国に援軍を求めたのだ。キシュアス王の実弟だった。
 だが、そのラーデマケラス公爵が国王となった今、ミラーンが口にするその人物は。
「息子か?」
「左様です。奥様から見たら、懐かしい義兄(あに)というところでしょうね」
 目の前のミラーンがニヤニヤと笑っているのが癪に障る。
「何が言いたい?」
「いえ? ただ、ラーデマケラス公爵からしたら、義妹(いもうと)がどのような生活を送っているのかは、気になるのではないでしょうか?」
「褒賞の名目でやってきた女だ。俺がどう好きにしようがかまわないだろう」
 本心ではない言葉を口にしたのは、ミラーンへの牽制のためである。
「そうですね。奥様はこちらにとっても人質のような存在ですからね。ですが、命があっての人質ですよ?」
 イグナーツは舌打ちをした。
「まぁ、閣下はそのようなこと一ミリも思っておりませんよね。とにかく、ラーデマケラス公爵の前では、いつものように夫婦の仲睦まじい様子を見せつけておけばいいのです」
「いつものように……だと?」
 イグナーツはミラーンの前で、オネルヴァとの仲を見せつけたことなど一度もない。にもかかわらず、彼がなぜそれを知っていのか。
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