初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 こうやって頼りにしてくれるのも、彼がオネルヴァを信頼しているからだ。
 誰かに必要とされている。信頼されている。
 それだけで心の奥底に温かな光が灯る。この光を消したくない。
 イグナーツの話は本当に急なもので、オネルヴァとエルシーは二日後に領地へ向かうことになった。護衛として、ミラーンをはじめとする幾人かの者が付き添ってくれるらしい。
 キシュアス王国からこちらへ来たときも、国境を越えてから護衛の人数が増えた。キシュアス王国内は疲弊しており、国のために嫁ぐオネルヴァを襲うような輩もいなかったし、そこまでの考えにおよぶような者もいなかった。
 だが、ゼセール国内では数年前の内戦の火種がくすぶっているとのこと。一見、平和で豊かに見える国内であるが、制圧された側の想いというものはどこかに残っている。
 次の日、屋敷を出るイグナーツの背をエルシーと見送ったオネルヴァは、早速ヘニーたちの手を借りて、領地へ向かう準備を始めた。
 とはいえ、何をしたらいいのかさっぱりわからない。領地にある屋敷は領主館や本邸、もしくは北の城と呼ばれているようだが、もちろんオネルヴァはそこに足を踏み入れたことがない。
「エルシーは、本邸へ行ったことがありますか?」
 荷造りの合間の休憩時間に、オネルヴァはエルシーに尋ねた。
「小さいときには行ったことがあると、お父さまが言っていましたが、覚えていません。お父さまは、こっちとあっちといったりきたりしています。だけどエルシーは、ずっとここにいます」
 エルシーの話にパトリックが補足する。
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