初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 初めて訪れた北の城と呼ばれる本邸は、『工』の形をしている城塞であった。手前の建物が見張り台を兼ね、裏の建物が住居スペースになっている。
 少々小高い場所にある城は、街並みを見下ろすように建っていた。少し離れた場所には、城の外壁と同じような胡桃色の住宅も建ち並ぶ。
「ここから、関所までは馬車で一時間ほどかかるのです」
 ヘニーによって中を案内されたオネルヴァとエルシーは、こちらで働いている使用人も紹介された。
「奥様とお嬢様のお部屋はこちらになります」
 移動の疲れを見せないヘニーによって、二人は部屋へと案内される。
 木材をふんだんに使った調度品は、どことなく暖かさを感じる。そんな木の温もりを感じるような部屋だった。
 茜色の四柱式の寝台が、ぱっと室内を華やかにしていた。
 寝台から少し離れた場所にはお茶を嗜めそうな長椅子とテーブルが置かれている。
「移動ばかりでお疲れですよね。今、お茶をお淹れします」
 疲れているのはヘニーも同じだろうに、彼女は年齢を感じさせないきびきびとした動きで手際よくお茶を淹れている。
「ヘニーも一緒にいかがですか?」
 オネルヴァが誘えば、彼女が断らないの知っている。
 ヘニーは微笑んでから「お言葉に甘えさせていただきます」と口にした。
 オネルヴァもほっと息を吐く。
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