初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 だが、ヘニーがお茶を淹れている間に、隣に座ったエルシーの頭がこっくりこっくりと動き出す。
「あら?」
 その様子に気がついたオネルヴァは、彼女の身体を長椅子の上に横たえ、上掛けをかける。
「エルシーお嬢様は、お疲れのようですね。奥様は、大丈夫ですか?」
「えぇ」
 そこでオネルヴァは紅茶の入った白磁のカップに手を伸ばした。紅茶の香りを吸い込むと、疲れがふっとどこかにいなくなるような感じがした。
「ヘニー。よろしければ、お話につきあっていただけないでしょうか? 少し、この辺のことを教えていただきたいのです。例えば、街の様子とか」
 そう言ってカップをテーブルの上に戻すと、微かに微笑んだ。するとヘニーも、口元をほころばせてからゆっくりと話し出す。
「こちらに来る途中にも見えましたが、この本邸を中心として街が広がっております。数年前の内戦で、こちらにも戦火にさらされましたが、今ではもうすっかりと元に戻っております。他の国境の領地と比べましても、比較的住んでいる人間も穏やかではありますね。旦那様も、こちらに来られると街へとおりて、様子を確認されているのですよ」
「数年前の内戦というのは、異民族であるシステラ族が反乱を起こしたのがきっかけだと読んだのですが……」
「はい。そうですね。システラ族は民族意識が高いものですから。このゼセール王国からの独立を考えていたのだと思います」
 それの発端となったのが、国内の税率を変更するいう案が議会に提出されたからだ。もともと、ゼセール国内の税率が高いと思っていたシステラ族は、その案に反発し始めた。周辺の町や村を巻き込み、税率が上がれば自分たちの生活にどのような悪影響を及ぼすかを説き始める。
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