初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 そのくらいの活動であれば、大小さまざま各地で起こっているため、大した問題ではないと国側では考えていた。すべての国民に受け入れられる施策など、存在しない。誰かが良案だと思っても、誰かは悪だと感じる。それは何事においても利点と欠点があるからだろう。その欠点を最小限に抑えるための策であっても、結果が出なければ誰も納得などしない。
 そして争いのきっかけは、なんだっていいのだ。いくつもの小さな不満、考えの違いが集まって、爆発しただけにすぎない。もともとシステラ族は南の隣国のラハルン王国から逃げ出したきた民族であり、そこをゼセール王国が受け入れただけである。
 彼らを受け入れて数十年経つが、システラ族はこの国での生活になじめなかったのだろう。民族意識の高さから団結し、さらに鬱憤がたまりにたまっただけにすぎない。
 それが発端となり、システラ族との争いの火ぶたが落とされた。たかが少数民族と侮っていた節もある。また、南のエホーブ領が最初に狙われたのも原因だった。
 システラ族はいつの間にか、周辺の町や村までをも味方につけていたのだ。国民の誰もが忘れかけていたことだが、システラ族は魔力の強い民族だった。その魔力に魅せられた者はシステラ族につき、システラ族の意見に耳を傾け心打たれた者は彼らの虜となる。その結果、ゼセール王国から独立すれば、これだけ豊かで自由な生活が望めると、人々の気持ちを煽った。
 南のエホーブ領はラハルン王国と接していることから、ラハルン国民も多く訪れている。それは観光であったり産業の発展であったりと、二国間における友好的な交わりのためである。
 それでもシステラ族にとって、ラハルン王国は自分たちを追い出したにっくき相手。
 彼らが狙ったのは、エホーブ領に滞在していたラハルン国民だった。しかも観光のために訪れていた年若い夫婦だった。新婚旅行だったのだろう。
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