初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「君は……。どこでそういうのを覚えてきたんだ」
「わたくしに閨事を教えてくださったのは、イグナーツ様です」
 イグナーツの表情が、ピシッと固まった。何か言いたそうに口を開くが、その言葉は出てこない。そのまま唇を噛みしめて、まっすぐにオネルヴァを見つめる。
「つまり、もう遠慮しなくていいということだな?」
 彼が何に対して遠慮をしていたのかはわからないが、オネルヴァは静かに頭を縦に振った。頭をあげた途端、抱きかかえられて寝台へと連れていかれる。
 そのまま激しい口づけを交わし、彼はオネルヴァのナイトドレスの合わせから手を差し入れ、直に肌に触れた。
 じわりと身体の奥から熱が生まれる。
「イグナーツ、さま……」
 オネルヴァも手を伸ばし、彼の服を脱がせる。互いに互いの服を脱がせ、次第に肌が露わになる。
「君のおかげで、俺の魔力はずっと安定している」
 彼はいつも優しく触れてくる。今も、オネルヴァの頬を両手でやわらかく包んでいる。
「そう、なのですか?」
「ああ。そうでなかったら、あんな繊細な拘束魔法は扱えなかった。いつもであれば、拘束ついでに腕の一本や二本くらい折っている」
 それが冗談なのか本気なのか、悩むところではあるが。
 彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
 互いの鼓動を感じ合いながら、抱きしめ合う。彼の熱を感じて、幸せをかみしめる。
 自然と涙がこぼれた。

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